花崗岩内の物質移動経路に関する新知見 ~斜長石の熱水変質で生じる微小孔の役割と物質移動の解明~

【ポイント】

  • 中部日本の土岐花崗岩を対象とした研究により,花崗岩(※1)中に多く含まれる斜長石(※2)の熱水変質現象(※3)で生じる花崗岩中の物質の移動経路としての微小孔(※4)の成因と役割を解明。
  • さらに,斜長石の熱水変質現象に関する検討を通じ,7,000万年前から5,000万年前の花崗岩冷却時の地下水の長期的な水質変化を把握するために有用な方法を提示。

    ※用語解説
    1.花崗岩:地下に貫入したマグマが地表まで到達せずに,地殻中にマグマ溜りとしてゆっくりと冷え固まった岩石(深成岩)のうち,主に石英と斜長石,カリ長石で構成される岩石。深成岩の一種。日本列島の地下には基盤岩として広い領域に分布。
    2.斜長石:マグマ溜りが冷却固化した深成岩や,火口近くで急激にマグマが冷えて固まった火山岩に広く観察される鉱物。シリカ,アルミニウム,カルシウム,ナトリウムなどを含む。
    3.熱水変質現象:熱水とはマグマの冷却に伴い,鉱物が晶出した後に残る深成岩体中の高温(数百度程度)の水溶液。深成岩体内を循環するこの熱水と深成岩体中の鉱物が接することで,元々の鉱物が異なる鉱物に変化,あるいは岩石組織が変化する現象を熱水変質現象という。

     4.微小孔:斜長石などの鉱物中に観察される孔状の微小(数マイクロメートル程度)な空隙。
    5.花崗岩冷却時:マグマが地表に到達すると,ゆっくり冷え固まり岩石(花崗岩)に変化する。その時の温度は約700℃。花崗岩はこれ以降も冷却され,この冷却されている時期を「花崗岩冷却時」という。この花崗岩冷却時に熱水変質現象が生じる。

【概要】

 山形大学学術研究院の湯口貴史准教授(地球科学),(株)蒜山地質年代学研究所の八木公史博士,日本 原子力研究開発機構の笹尾英嗣博士,石橋正祐紀博士,熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)の 西山忠男教授らの研究グループは,中部日本の土岐花崗岩を研究対象とし,斜長石の熱水変質現象に伴い生じる数マイクロメートル程度の微小孔(図1)の成因と地下環境中での物質移動経路としての役割を解明しました。  花崗岩中に普遍的に観察できる斜長石では,熱水変質現象により斜長石中に微小孔が生じ,これが斜長石内部の変質を促進します。このことは微小孔が物質の新たな移動経路となり得ることを示しています。変質の幅と鉱物年代から,この微小孔を通路とした物質の移動速度は,土岐花崗岩中の割れ目を経路とする平均的な物質移動速度よりも一千億分の一程度小さい速度となることが分かりました。さらに,熱水変質現象でできた鉱物は物質を捕らえる機能も有するため,微小孔は,地質環境での物質の移動を評価する上で重要な要素の1つとなるという知見を得ました。 また,花崗岩中の斜長石の熱水変質現象のメカニズムを検討することにより,花崗岩冷却時(※5)(特に7,000万年前から5,000万年前の間)の地下水の水質変化を把握する方法を見出しました。 地質環境特性(地下水の流動経路や水質の長期的な変化)の把握は,深部地質領域(地下深部に分布する岩石領域)を活用する事業(天然ガス・石油の地下貯蔵)や研究開発(高レベル放射性廃棄物の地層処分など)において重要な知見となります。本研究成果は,国際学術雑誌の「American Mineralogist」に掲載されました。

【論文情報】

雑誌名:American Mineralogist,104, 536-556(2019)
論文タイトル:Role of micropores, mass transfer, and reaction rate in the hydrothermal alteration process of plagioclase in a granitic pluton
著者名:湯口貴史1,菖蒲澤花穂2,小北康弘2,八木公史3,石橋正祐紀4,笹尾英嗣4,西山忠男5
所属:1. 山形大学学術研究院 2. 山形大学理学部 3. 蒜山地質年代学研究所 4. 日本原子力研究開発機構 5. 熊本大学先端科学研究部理学系
DOI:https://doi.org/10.2138/am-2019-6786
公表:2019年4月2日号(2019年1月11日オンライン公開)

【詳細】

プレスリリース(PDF1448KB)

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先端科学研究部(理学系) 教授 西山忠男
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