基礎物性から迫る抗菌性ゼオライトの秘密
【ポイント】
- 銀を含むゼオライトは、高い抗菌性と複雑な構造を持つ絶縁体で、比較的簡単に安価に作製することができますが、その抗菌性のメカニズムは明らかになっていませんでした。
- 放射光を用いて原子構造と電子状態の基礎物性を明らかにし、得られた実験結果を、密度汎関数法による理論計算によって精密に再現することができました。
- 解析の結果、ゼオライト中の銀はおよそ0.5価と電子的に不安定な状態であり、フリーラジカルとして細菌細胞を破壊することで高い抗菌性を持つことがわかりました。
【概要説明】
熊本大学産業ナノマテリアル研究所の細川伸也特任教授、小林健太郎科研研究員(現:島根大学)、先端科学研究部の高良明英技術職員および下條冬樹教授は、弘前大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所、京都大学、物質・材料研究機構(NIMS)、高輝度光科学研究センター(JASRI)並びに東京大学の研究者と協力して、抗菌性を持つ銀含有ゼオライト(注1)の機能の起源の解明に基礎物性の立場から取り組みました。分析には放射光X線を利用したX線回折実験(注2)並びに軟X線分光実験(注3)、および密度汎関数(DFT)法による理論計算(注4)を組み合わせました。
この研究により、これまで不明であった抗菌性のメカニズム、すなわち0.5価という中途半端な価数になっている銀がフリーラジカル(注5)として細菌細胞を破壊することを見出しました。
この研究成果は、これまで経験的にしか語られることがなかった機能性ゼオライトに一定の指針を与えることができ、今後のゼオライト材料の新規材料開発に新たな指針を与えるものとして期待されます。
本研究は文部科学省科学研究費補助金・学術変革領域研究(A)「超秩序構造科学」および基盤研究(C)、科学技術振興機構CRESTの支援を受けて実施されたもので、科学雑誌「Microporous and Mesoporous Materials」に令和5年6月6日掲載され、6月21日に発刊されました。
【今後の展開】
今回、放射光施設を有効に用い、また多くの大学、研究施設と共同研究を行うことにより、一つの機能性ゼオライトについて、原子配列や電子状態を実験的に探索することができました。さらにDFT理論を用いることにより、これまでよく見えなかった原子の並び方や電子状態の特徴に踏み込んだ研究を行うことができました。これにより、抗菌性ゼオライトの機能のメカニズムを解明することができました。
今後は、遷移金属を含むゼオライトの排ガス純化触媒機能について、実験および理論計算を組み合わせて行うことにより、メカニズムを明らかにすることを目指しています。
また、今回の研究で分かった研究上の大きな問題は、ゼオライトの単位格子に含まれる原子数が600個を超えることです。大学のコンピュータではこれだけの大きさの計算を正確に行うことが難しいので、今後は自然科学研究機構(NINS)の研究者と共同でスーパーコンピュータ「富岳」の利用を行い、共同研究の範囲をさらに広げていきたいと考えています。
【論文情報】
論文名:Atomic and electronic structures of an Ag-containing 4A zeolite
著者:Shinya Hosokawa, Kentaro Kobayashi, Akihide Koura, Fuyuki Shimojo, Yasuhisa Tezuka, Jun-ichi Adachi, Yohei Onodera, Shinji Kohara, Hiroo Tajiri, Anand Chokkalingam, Toru Wakihara
掲載誌:Microporous and Mesoporous Materials
DOI: 10.1016/j.micromeso.2023.112662
URL:https://doi.org/10.1016/j.micromeso.2023.112662
【詳細】 プレスリリース(PDF581KB)
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