価数の異なるイオンの周辺原子の並び方を区別できる新しい放射光X線利用技術

【ポイント】

  • 物質の性質や機能性は構成元素のイオン価数など電子状態に大きく依存しますが、イオン価数を区別して原子構造を解析する手段はこれまでありませんでした。
  • 今回、電子状態(価数)が異なるイオンのまわりの原子の並び方を明確に区別することができる新しい技術を開発しました。
  • 本技術を用いて、価数の変化がその機能に大きく関わっていると考えられる、光合成タンパク質の機能の解明等に大きく期待できます。

 【概要説明】

 熊本大学、名古屋工業大学、奈良先端科学技術大学院大学、広島大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)ほかの研究グループは、放射光X線を利用した蛍光X線ホログラフィー(XFH)を用いた新たな観測技術を開発しました。本手法により、温度変化によってイッテルビウム(Yb)のイオン価数が3価から2価に急激に変化することが知られている価数転移物質YbInCu4を対象に実験したところ、3価および2価のYbイオンのまわりの原子の並び方をその価数ごとに区別して観測することに成功しました。

 XFH法は、放射光X線を利用して特定の元素のまわりのミクロな原子配列を観測する手法として、近年急速に普及してきました。この手法では、入射するX線のエネルギーを適切に選ぶことにより、同じ元素でも価数の異なるイオンのまわりの原子配列を個別に観測できるという、価数選択性を活用した測定が原理的に可能であると推測されます。研究グループはこの点に着目し、実験的に証明する試みを行ってきました。価数選択性を有する構造解析は、一般的な手法であるX線や中性子の回折やX線吸収微細構造分光(XAFS)を用いる限り、たとえ強度の著しく高い放射光X線を用いても不可能でした。

 今回の研究は、イオン価数が変化する性質を持つ価数転移物質YbInCu4を研究対象とし、新しいデータ解析手法の一つであるスパース・モデリングを導入して、価数の違いによって周辺原子の並び方が大きく異なることを3次元原子イメージとして実験的に初めて明らかにしました。この手法は、今後多くの機能性材料の価数に関する物性の理解に新たな指針を与えるものとして期待されます。例えば、価数の変化がその機能に大きく関わっていると推察される、光合成タンパク質の機能の解明に大きく貢献すると期待されます。

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(B)、新学術領域研究「3D活性サイト科学」および「疎性モデリング」、ドイツ研究振興協会メルカトル協会の支援を受けて実施されたもので、科学雑誌「The Journal of Physical Society of Japan」に令和2年3月2日(日本時間午前10時)掲載されました。

 【論文情報】
論文名:Valence-Selective Local Atomic Structures on an YbInCu4 Valence Transition Material by X-Ray Fluorescence Holography
著者:Shinya Hosokawa, Naohisa Happo, Kouichi Hayashi, Koji Kimura, Tomohiro Matsushita, Jens Rüdiger Stellhorn, Masaichiro Mizumaki, Motohiro Suzuki, Hitoshi Sato, and Koichi Hiraoka
掲載誌:The Journal of Physical Society of Japan
doi:10.7566/JPSJ.89.034603
URL:https://journals.jps.jp/doi/full/10.7566/JPSJ.89.034603


【詳細】
プレスリリース本文(PDF88KB)

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