支笏カルデラ噴火の継続時間の把握に成功 ~火砕流堆積物の連続層から復元した古地磁気方位を利用~

【概要】
 熊本大学・茨城大学・高知大学・北海道大学・同志社大学の研究グループは、北海道の支笏(しこつ)カルデラ噴火(約4万5千年前)の火砕流堆積物が重なる地層から古地磁気方位*1の変動を復元し、この一連の噴火の継続時間は数百年であるという見積もりを得ました。本研究のアプローチは、過去に起きた火山噴火の時間情報の抽出に役立ち、火山学や火山防災に貢献すると期待されます。

【背景】
 カルデラ*2を形成するような巨大噴火(以下、カルデラ噴火)は、1万年に1回程度とその頻度は低いものの、火山災害としての影響は破局的です。火山から数百㎞の地域にまで火砕流が到達することもあります。一方で、カルデラ噴火の継続時間を評価する方法はほとんどなく、地質学的には一瞬の現象と捉えられてきました。
 約4万5千年前に起きた北海道の支笏カルデラ噴火(噴出量100㎞3以上)の火砕堆積物は、従来の研究では6つのユニットに分けられ、その中に2度の休止期があったと指摘されています*3。本研究ではそれらの火砕流堆積物から古地磁気方位を復元することで、噴火の継続時間を調べました。

【今回の成果】
 本研究では、これまで定方位*4での試料採取が難しいと考えられてきた非溶結*5の火砕流堆積物に対して、著者らが開発した専用器具を用いることで、従来よりも定方位に伴う誤差を小さくおさえた定方位試料の採取を実現しました。
 その結果、支笏カルデラ噴火の非溶結火砕流堆積物が重なる地層から古地磁気方位を復元することに成功し、15度程度の古地磁気方位の変動を確認しました。一般的な古地磁気方位変動の速さ(100年あたり数度)と比較することで、支笏カルデラ噴火の継続時間を数百年と見積もりました。

【今後の展望】
 本研究のアプローチは、火砕流堆積物や溶岩に広く適用可能であり、噴火過程の時間スケールの推定に役立つので、火山学・火山防災に貢献すると考えられます。
 本研究結果の詳細については、2022年11月6日にハイブリッド形式(対面/オンライン)で行われる「第152回地球電磁気・地球惑星圏学会 総会および講演会」で発表される予定です。
詳細はこちら:https://www.sgepss.org/sgepss/fallmeeting/FM2022/LOC2022/index.html

【用語解説】

*1 古地磁気方位:火山岩や堆積物から復元された過去の地磁気方位。古地磁気方位は、過去1600年間のデータによれば、100年あたり平均数度の速度で変動している。

*2  カルデラ:火山噴火によって形成された直径2㎞以上の陥没地形。

*3  中川ほか(2018), 地学雑誌, 127, 247-271. https://doi.org/10.5026/jgeography.127.247

*4  定方位: 露頭における試料の3次元的な向きを測定することを定方位という。実験室で得られる試料座標系における磁化の3成分を、露頭での座標系(北、東、鉛直下)における3成分に変換し、古地磁気方位を得る。

*5  非溶結: 高温で厚い火砕流堆積物が定置後に高い温度に保たれると、火砕流を構成する粒子どうしが溶結し、岩石(溶結凝灰岩)になる。これに対して、溶結していない状態を非溶結という。火砕流堆積物の多くは非溶結で、構成粒子は固結していないので定方位試料を採取するのが難しく、古地磁気方位測定の対象ではなかった。

【詳細】 プレスリリース(PDF438KB)



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熊本大学大学院先端科学研究部
担当:准教授 望月 伸竜
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