鉄原子42個からなるカゴ状磁性分子の合成に成功〜巨大分子磁石の世界記録を樹立〜

九州大学、大連理工大学(中国)、高輝度光科学研究センター、熊本大学、九州工業大学、大阪大学、東北大学の研究グループは共同で、これまでに人工的に合成されたなかで、最も巨大な分子磁石(※1)となるカゴ状磁性ナノクラスター分子を開発することに成功するとともに、大型放射光施設SPring-8(※2)の世界最高クラスのX線装置(※3)と東北大学の強磁場実験施設を用いて、その複雑な分子構造と電子状態を解明しました。
近年、分子エレクトロニクスへの応用を目指し、人工的に磁性分子を合成して巨大なナノスケール磁石を作る競争が世界的に展開されています。共同研究グループは、今回、鉄(Fe)原子42個から構成され、Feの原子磁石(※4)の間に、磁極の向きを揃えるような強磁性相互作用が働くナノクラスター分子を精密に設計・合成し、1分子がもつことのできる磁石の大きさの世界記録(90ボーア)(※5)を樹立しました。また、X線構造解析により、合成した磁性ナノクラスター分子がナノメートルサイズの中空のカゴ状構造をもつことを明らかにしました。カゴ状構造をもつ分子は、その空間を利用した分子貯蔵やナノサイズの化学反応容器(ナノフラスコ)としての応用が期待され、現在最も注目されている分子材料の一つです。
本研究成果は、2015年1月6日(火)午前10時(英国時間)に、オンライン科学誌「Nature Communications」(URL: http://www.nature.com/ncomms/2015/150106/ncomms6955/full/ncomms6955.html )に掲載されました。

【用語説明】
(※1) 分子磁石
ナノスケールの分子単位で磁石となる物質の総称。世界的な開発競争が行われている。
(※2)大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光(X線)を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8の光は実験室のX線装置の10億倍の輝度に達する。この高輝度放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
(※3) X線
原子サイズの波長をもつ光で、物質の構造の決定や分析に用いられている。
(※4) 原子磁石
原子を一つの磁石と見なしたもの。原子核のまわりを回る電子による原子レベルの磁石により磁性が生じる。
(※5) ボーア
1ボーアは原子磁石の大きさの単位。 自然界で、最も大きな希土類元素(ジスプロシウム: Dy)で10ボーアを示し、これを超える大きい磁石は人工的に合成する必要がある。
(※6)シアノ基
炭素原子と窒素原子が三重結合で結合した官能基。-CNで表される。

詳細: プレスリリース本文 (PDF 462KB)

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