宇宙空間に流出する月の炭素を初観測ー月誕生の定説を覆す発見ー

【研究発表のポイント】

  • 月周回衛星「かぐや」(※1)によって月全面から恒常的に宇宙空間に流出する炭素を発見
  • 月は誕生時から炭素を含有していたことを示唆
  • 月(と地球)の誕生・進化モデル(巨大衝突(※2)説)について見直す契機となる

【概要説明】
 熊本大学大学院先端科学研究部の渋谷秀敏教授は、大阪大学大学院の横田勝一郎准教授・寺田健太郎教授らとともに、月周回衛星「かぐや」のプラズマ観測装置(※3)によって 月の表面全体から 流出する炭素を世界で初めて観測しました。この観測結果から月には誕生時から炭素が存在することが強く示唆されます。
 巨大衝突によって形成されたと考えられていた月には、 炭素などの揮発性物質は存在しないとこれまで考えられていました。今回の観測成果から、月の誕生について揮発性物質を残らず蒸発させる従来の巨大衝突モデルから、揮発性物質が残ることを許容する新しい月誕生モデルへの転換が期待されます。
 本研究成果は、米国科学誌「 ScienceAdvances 」に、 5 月 7 日(木)午前 3 時(日本時間)に公開されました。


【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】
 旧来の巨大衝突による月誕生進化モデルでは、月には誕生時から水や炭素など揮発性物質が存在しない (ドライ説)とされましたが 、揮発性物質はある程度含まれていたという新たな考え方(ウェット説)が最近提唱されました。計算機環境の発展と共に、 揮発性物質の存在を許す巨大衝突モデルも報告されています。本研究成果による炭素の発見は 、私たちの月の誕生と進化を ウェット説の観点で 再考する大きな契機となることが期待されます。
 JAXAの水星探査機 ベピコロンボ /MIO (みおや、火星衛星フォボス探査機 Martian MoonseXploration(MMX) でも 、「かぐや」と 同じような質量分析装置による観測も予定されています。 水星や火星の月フォボスから流出するイオンを観測することで、 各天体の起源や進化に迫る研究など太陽系科学への大きな貢献が期待されます。

【用語説明】

※1: 月周回衛星「かぐや」
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月周回科学観測衛星。2007年9月に打ち上げられ、2009年6月まで主に月の全球マッピングを目的とした月全表面の元素組成、鉱物組成、地形、表面付近の地下構造、磁気異常、重力場の観測を行った。
※2: 巨大衝突
 月誕生モデルの一つ。原始地球に火星サイズの小惑星が衝突することで月の形成を説明している。旧来の巨大衝突モデルでは衝突時の月は高温状態の火球となるため、揮発性物質が残ることを許さなかった。
※3: プラズマ観測装置
 月周辺でのプラズマ環境計測を目的とし、2台の電子分析器、2台のイオン分析器(うち1台は質量分析装置付き)、及び磁力計にて構成される。

【論文情報】

・タイトル:“KAGUYA observation of global emissions of indigenous carbon ions from the Moon“
・著者名 :Shoichiro Yokota, Kentaro Terada, Yoshifumi Saito, Daiba Kato, Kazushi Asamura, Masaki N. Nishino, Hisayoshi Shimizu, Futoshi Takahashi, Hidetoshi Shibuya, Masaki Matsushima, Hideo Tsunakawa

詳細:プレスリリース本文(702KB)

 

お問い合わせ  
熊本大学 大学院先端科学研究部(理学系)
地球環境科学分野
教授 渋谷 秀敏(しぶや ひでとし)
TEL:096-342-3417
E-mail:shibuya※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)