幕末・維新に用いられた銃弾の鉛はどこから? 〜鉛同位体比から鉛資源の流通を復元〜

【ポイント】

  • 幕末・維新で使用された銃弾遺物の鉛同位体比を用いて,銃弾に用いられた鉛鉱石の起源(産地)を検討した。
  • 19世紀前期~中期の鉛資源の世界的な流通シェアは,イギリスが握っていたことが明らかとなった。
  • 出土した約半数の洋式銃の銃弾は,日本産の鉱石を用いて自前で鋳造していたことも明らかとなった。

【概要説明】 

 近世~近代は,銃火器を用いた戦争・内戦が世界の各地で勃発しました。日本でも19世紀以降,戊辰戦争(注1)や西南戦争(注2)などが発生し,多量の洋式銃が輸入されました。これらの小銃や銃弾の来歴を検討することで,当時の金属資源の産出状況や,武器マーケットの流通状況などを復元することができます。

 これまでの報告により,鉄砲が伝来した戦国時代の銃弾に用いられている鉛は,日本産の鉱石のほか,中国北部,中国南部,朝鮮半島,タイからもたらされていたことが知られていました。一方,19世紀に起こった西南戦争(1877年)で新政府軍が使用した銃弾は,これらのいずれの地域の鉱石とも異なる鉛同位体比(注3)が得られており,その鉛資源の起源については不明でした。

 そこで,琉球大学理工学研究科の相澤正隆 博士,岩手大学の溝田智俊 名誉教授,熊本大学の細野高啓 教授,琉球大学理学部および総合地球環境学研究所の新城竜一 教授,長崎県対馬歴史民俗資料館の古川祐貴 博士,山形大学の野堀嘉裕 名誉教授からなる研究チームは,江戸時代末~明治維新期に使用・鋳造された銃弾を多数収集し,歴史学的・考古学的な検討を行うとともに,これらの鉛同位体比の化学分析を実施しました。

 検討の結果,この時期に使用・鋳造された約半数の銃弾は外来の鉛資源を使用しており,これらはイギリスからもたらされた可能性が示唆されました。近世は,ヨーロッパ諸国が世界へ進出し始めた時期にあたり,世界的な鉛資源のマーケットも,同時期に大きく変化したことが明らかとなりました。また,残りの約半数の銃弾は,日本国内の鉱山で採掘された鉛鉱石と同じ鉛同位体比を示しました。すなわち,当時の最新式の洋式銃の銃弾であっても,輸入に頼るだけではなく,日本国内でも自前で銃弾を準備していたことが読み取れます。

【用語解説】

1. 戊辰戦争・・・18681869年にかけて,薩摩藩・長州藩・土佐藩などの西南日本の雄藩を中心とする新政府軍と,旧徳川幕府軍や東北日本の諸藩が戦った日本史上最大の内戦。両軍が配備していた銃火器の性能と数の差が,戦闘の勝敗を分けたと考えられている。

2. 西南戦争・・・1877年に,西郷隆盛を首班とする旧薩摩士族が引き起こした反乱。江戸時代までは支配階級であった士族の中に,明治新政府の下で特権を剥奪された不満が渦巻く中で,征韓論を契機とする明治政府内の権力闘争が絡み,特に西南日本で士族による反乱が相次いだ。

3. 鉛同位体比・・・各原子には,同じ元素でも原子核中の中性子の個数が異なるため,質量数の異なる同位体が存在する。このうち,放射線を出して核分裂する同位体を放射性同位体,核分裂しない同位体を安定同位体と呼ぶ。放射性同位体が核分裂をすると,別の元素に変化する。鉛(Pb)の安定同位体のうち,質量数206207208Pbは,それぞれウラン238,ウラン235,トリウム232からの最終生成物で,これに鉛204を加えた各同位体の比は,地質イベント(鉱化作用など)の履歴を記録している。銃弾の鉛同位体比は,原料となった鉛鉱石(方鉛鉱など)の鉛同位体比を引き継いでいるため,原料となった鉱石の原産地の推定が可能となる。

【論文情報】

論文タイトル:Lead isotopic characteristics of gun bullets prevailed during the 19th century in Japan: Constraints on the provenance of lead source from the United Kingdom and Japan.19世紀の日本で流通していた銃弾の鉛同位体比:イギリスおよび日本を起源とする鉛の来歴の検討)
雑誌名:Journal of Archaeological Science: Reports
著者:Aizawa, M.1, Mizota, C.2, Hosono, T.3, Shinjo, R.1,4, Furukawa, Y.5, and Nobori, Y.6(※責任著者)
1 琉球大学,2 岩手大学,3 熊本大学,4 総合地球環境学研究所,5 長崎県対馬歴史民俗資料館,6 山形大学
DOI番号:10.1016/j.jasrep.2021.103268
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352409X21004806

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