ヒトの病気の原因となる遺伝子変異がタンパク質の細胞内動態に影響することを解明

【ポイント】

  • 自閉症スペクトラムの原因と考えられる変異がDNAトポイソメラーゼ2β(TOP2B)*1 遺伝子中に同定されています。しかしこの変異がTOP2Bタンパク質にどのような影響を及ぼすかは不明でした。
  • 通常は生きた細胞の核内でダイナミックに挙動するTOP2Bタンパク質が、この変異を持つと動きが顕著に低下することを見出しました。
  • 遺伝子変異の影響が、生きた細胞中でのタンパク質の挙動に現れることを示しました。TOP2B遺伝子の変異によってなぜ自閉症スペクトラムが発症するかを理解するための重要な手がかりといえます。

【概要説明】

 熊本大学産業ナノマテリアル研究所の矢野憲一教授らの研究グループは、病気の原因と考えられる遺伝子変異の影響が、生きた細胞中でのタンパク質の挙動の変化として現れる例を明らかにしました。
近年、中国と日本において自閉症スペクトラム患者のDNA解析より、この病気の原因と考えられる変異がDNAトポイソメラーゼ2β(TOP2B)遺伝子中に同定されていました。しかしこの変異がTOP2Bタンパク質にどのような影響を及ぼすかは不明でした。
 本研究にて、遺伝子変異の影響が生きた細胞中でのタンパク質の挙動に現れる例を示したことにより、他の病気と関連する遺伝子変異でも同様のケースがある可能性が考えられます。また、本研究はTOP2B遺伝子の変異によってなぜ自閉症スペクトラムが発症するかを理解するための重要な手がかりといえます。
本研究成果は、令和4年11月30日に科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
    なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援を受けて行われました。

【本研究の意義と今後の展望】

 近年のゲノム解析技術の大きな進展により、病気と関連する遺伝子変異が数多く同定されるようになりましたが、遺伝子変異がタンパク質にどういった影響を及ぼすかは多くの場合で不明なままです。本研究では遺伝子変異の影響が、生きた細胞中でのタンパク質の挙動に現れる例を示しました。他の病気と関連する遺伝子変異でも同様のケースがある可能性が考えられます。
 また、本研究はTOP2B遺伝子の変異によって、なぜ自閉症スペクトラムが発症するかを理解するための重要な手がかりといえます。TOP2Bは神経系での転写制御に関与して神経発生をコントロールすることから、次の研究の焦点は、転写制御における正常型TOP2BとTOP2B H58Yの違いを探索することになります。

 

【用語解説】

*1 DNAトポイソメラーゼ2β (TOP2B):TOP2はDNAの過剰なねじれを解消する酵素で、転写、DNA複製、染色体分配など、DNAが関わる様々な局面で機能します。ヒト細胞はTOP2AとTOP2Bの2つのTOP2を持っています。TOP2Bは神経系での遺伝子発現に特に重要な役割を担っており、その機能不全は神経系の発生に様々な悪影響を及ぼすことが知られています。


【論文情報】

論文名:Disease-associated H58Y mutation affects the nuclear dynamics of human DNA topoisomerase IIβ.
(病態関連変異H58YはヒトDNAトポイソメラーゼIIβの核内動態に影響する)
著者:Keiko Morotomi-Yano, Yukiko Hiromoto, Takumi Higaki, Ken-ichi Yano(責任著者)
掲載誌:Scientific Reports Volume 12, Article number: 20627 (2022)
doi:10.1038/s41598-022-24883-2
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-022-24883-2

【詳細】 プレスリリース(PDF290KB)



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熊本大学産業ナノマテリアル研究所
担当:教授 矢野 憲一
電話:096-342-3965
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