やっぱり “孫太郎虫” の親は 花が好き!~ 新たに花蜜/花粉食のヘビトンボ2種を発見 ~

【ポイント】

  • クロスジヘビトンボ亜科のアマミモンヘビトンボに続き、ヘビトンボ亜科のヘビトンボとアマミヘビトンボの成虫も夜行性の  “訪花昆虫”であることを新たに確認しました。
  • ヘビトンボはクリ(ブナ科)の花蜜、アマミヘビトンボはイジュ(ツバキ科)の花粉をそれぞれ摂食していました。
  • 国内外にはもっと多くの訪花性のヘビトンボ類がいると予想されます。そのなかには、もしかしたら成虫期の食物を花に完全依存する種さえいるかもしれません。調査研究のさらなる進展が期待されます。

【概要説明】

    熊本大学大学院先端科学研究部・准教授の杉浦直人、飯田市美術博物館・学芸員の四方圭一郎、玉川大学大学院農学研究科・准教授の宮崎智史の研究チームは、北海道~九州に広く分布するヘビトンボProtohermes grandis(広翅目(こうしもく): ヘビトンボ亜科)の成虫が花蜜食であることを発見しました。これは自然環境下においてヘビトンボ科の成虫が食物源として花蜜を利用することを確認した初の事例となります。また、中琉球の限られた島(奄美大島・徳之島・久米島)に分布する近縁種のアマミヘビトンボProtohermes immaculatusが花粉を食べることも併せて確認しました。これらの研究成果は、2021年に花粉食であることが報告されたアマミモンヘビトンボ(クロスジヘビトンボ亜科)に続き、ヘビトンボ亜科にも採餌目的で花を訪れる種が複数いることを示し、謎につつまれているヘビトンボ科成虫の陸上での夜の暮らしぶり(食生活)の一端をさらに明らかにするものです。  
本研究の成果は令和5年3月6日に日本昆虫学会誌のEntomological Scienceにオンライン掲載されました。

【今後の展開】
     クロスジヘビトンボ亜科のアマミモンヘビトンボに加えて、ヘビトンボ亜科に属するヘビトンボとアマミヘビトンボも花を訪れ、採餌することが初めて明らかとなりました。これら3種のうち、少なくともヘビトンボは北海道~九州に広く分布しています。また、どの種も静止していることが多く、体表面に何かついていないか調べることも決して難しくありません。それにもかかわらず、どうしてこれまで誰もヘビトンボ類の成虫が花に来ることや花粉をまとった成虫がいることに気がつかなかったのでしょうか? 私たちは自らの調査体験も踏まえ、少なくとも下記の3点がその理由ではないかと考えます。

(1)夜間調査の欠如; 日中だけでなく、夜も花が咲いたままのクリやイジュのような植物では、これまで夜間に訪花昆虫を調べることがあまり実施されてきませんでした。
(2)訪花個体をみつける難しさ; 梅雨時期の夜間に高木の樹冠に咲く多数の花をひとつずつ調べてまわり、訪花個体をみつけるのは決して簡単ではありません。
(3)訪花個体を確認する難しさ; 梅雨の時期、葯の花粉が雨で洗い流されてしまえば、訪花個体かどうかを判断することが難しくなります。

     今後はこれらの事項も意識し、探索を行えば、世界各地から訪花性のヘビトンボ科昆虫が次々にみつかるのではと予想します。そのなかには、もしかしたら、成虫が花蜜・花粉だけを摂食する種さえいるかもしれません。生活史を完結するために水域と陸域、ふたつの生態系を必要とするヘビトンボのような昆虫はそれ自体が魅力的な研究対象であるだけでなく、生物多様性の観点から 景観の保全(水域と陸域の繋がりを維持する意義等)を考えるうえでも重要な示唆を与えてくれる存在であることから、さらなる研究の進展が望まれます。


【論文情報】

論文名: Notes on the foraging habits of adult Protohermes dobsonflies (Megaloptera: Corydalidae): Further evidence for anthophilous megalopterans
著 者:  Naoto Sugiura*, Kei-ichiro Shikata* and Satoshi Miyazaki
(*These authors contributed equally to this work.)
掲載誌: Entomological Science
doi:10.1111/ens.12542


【参考】
『孫太郎虫の親は花が好き! ~奄美大島から「花粉食のモンヘビトンボ」を発見~』 2021年2月10日 熊本大学・玉川大学 共同プレスリリース。
https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2020-file/release210210.pdf

【詳細】 プレスリリース(PDF580KB)



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<熊本大学SDGs宣言>

お問い合わせ
熊本大学大学院先端科学研究部
担当:准教授 杉浦 直人
電話:096-342-3468
E-mail:sugiura※kumamoto-u.ac.jp

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