世界初、測定データだけで物質のミクロ構造と構造ゆらぎを推定 ―電池、電子デバイスなどの材料研究に新解析法―

  • 物質のミクロ構造解析において、「フーリエ変換」を用いる従来法では、ミクロ構造の事前知識を必要とするため詳細な解析が困難だった。
  • 最新の情報抽出技術「スパースモデリング」を用い、事前知識を必要とせずに測定データのみから原子周辺の構造と原子の構造ゆらぎを解析できる手法を世界で初めて開発。
  • 新規材料研究において物質の構造の推定が可能となり、電池の高機能化や長寿命化などに貢献することが期待される。

    【概要説明】
     熊本大学パルスパワー科学研究所 赤井一郎 教授らの研究グループは、金属、半導体、絶縁体等の広域X線吸収微細構造(注1)の解析法に、スパースモデリング(注2)を適用しました。その結果、従来法では必要とされたミクロ構造の事前知識を必要とせず、測定データのみから、観測対象とする原子近傍10 Å(1 ㎚)程度までのミクロ構造と、近接原子の構造ゆらぎや可動性(注3)を推定することを可能にしました。この方法は、新規解析法として新規機能性材料や、熱電材料、二次電池の固体電解質材料等の物質の構造解明に応用され、電池の高機能化や長寿命化などに貢献することが期待されます。
     本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(熊本大学 赤井一郎 教授)およびJST戦略的創造研究推進事業(さきがけ 五十嵐康彦 研究者、CREST 東京大学 岡田真人 教授)の支援を受けて行いました。本研究成果は「Journal of the Physical Society of Japan」オンライン版に平成30年6月22日に掲載されます。

    【論文】
    論文タイトル:Sparse Modeling of an Extended X-Ray Absorption Fine-Structure Spectrum based on a Single-Scattering Formalism
    著者名( *責任著者): Ichiro Akai1,2,*, Kazunori Iwamitsu3, Yasuhiko Igarashi4,5,6, Masato Okada5,6, Hiroyuki Setoyama2, Toshihiro Okajima2,  Yasuharu Hirai2
    1. 熊本大学 パルスパワー科学研究所 極限物性科学部門
    2. 九州シンクロトロン光研究センター
    3. 熊本大学大学院 自然科学研究科 理学専攻
    4. 科学技術振興機構 さきがけ
    5. 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻
    6. 物質・材料研究機構 情報統合型物質・材料研究拠点

    掲載雑誌:Journal of the Physical Society of Japan
    DOI:10.7566/JPSJ.87.074003
    URL:https://journals.jps.jp/doi/abs/10.7566/JPSJ.87.074003

    (注1)広域X線吸収微細構造(EXAFS: Extended X-Ray Absorption Fine Structure)
     EXAFSは、原子のX線吸収によって放出される自由電子波と、それが近接原子によって散乱・回折された自由電子波との干渉現象を利用した構造解析法です。干渉パターンが近接原子との距離で劇的に変化することから、原子スケールのミクロ構造を解析するために汎用的に用いられています。具体的には、図2-1(a)の緑色の波形で示したように、自由電子波の波数kを横軸に、X線吸収強度の振動波形として観測されます。

    (注2)スパースモデリング
    現象を説明する要因は少数(スパース)であるという仮定に基づき、適切な規範に従ってデータに含まれる主要因を抽出する方法です。少ない情報から全体像をつかむことができ、MRI画像の鮮明化など多くの分野で利用されています。本研究で対象としたEXAFSでは、ターゲットとする原子(X線を吸収する原子)に隣接する原子は、化学構造や対称性を反映して、原子間距離に対して離散的、つまりスパースに配位する事実に基づいて適用しています。

    (注3)構造ゆらぎや可動性
    物質中の原子は、原子間の結合状態を反映して規則的な立体構造を形成しています。しかし原子は、規則的に決まる平衡位置で停まっておらず、その平衡位置を中心に細かく熱振動しており、この振動は温度が上がるとともに激しくなり熱伝導率に大きく影響します。さらに構造に欠陥があると原子の位置にズレが生じてしまいます。実際には、こうしたミクロ構造のゆらぎが物質の機能を支配しており、原子の熱的な構造ゆらぎや可動性は、同じ物質内での温度の違いを利用した熱電材料やイオン伝導を利用する二次電池材料にとって重要な要素です。構造がわからない物質でも構造ゆらぎや可動性を推定できる新解析法は、こうした熱電材料や二次電池材料などの解析や開発にとって画期的なものになります。

    【詳細】
      プレスリリース本文(PDF 615KB)
お問い合わせ
熊本大学パルスパワー科学研究所
担当:赤井一郎
電話:096-342-3296
e-mail:iakai※kumamoto-u.ac.jp

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