マルチレート観測情報を統合する状態推定器に関する基礎理論の構築

 熊本大学大学院先端科学研究部の岡島寛准教授らは、さまざまなセンサからの観測情報を使って多様なシステムの内部状態を推定する状態推定器に関する研究成果を発表しました。これは、京都大学大学院工学研究科の細江陽平講師と萩原朋道教授との共同研究です。

 近年、世の中にはさまざまなIoTシステムが利用されており、マルチセンシングを利用することで高精度な計測や高度な制御が可能になっています。マルチセンシングを利用した代表例は自動運転です。LiDARセンサやRGB-Dセンサなど様々なセンサを利用することで高精度な情報を取得し、自動運転システムに利用されます。同様に、運転支援システム(ADAS)においてもマルチセンサを利用した制御がなされています。また、LiDARやカメラを利用した配膳ロボットが一部の飲食店で利用されているなど、複数のセンサを利用したIoTシステムが多く展開されています。これらの計測・制御システムを実装するには、離散時間的な振る舞いを考慮してセンサによる観測情報に基づいてどのような制御を行うかが時々刻々と決められる必要があります。
 各種センサにおける観測の周期はセンサごとに異なります。例えば、多くのビデオカメラ(動画像)においては1秒あたりに30フレーム(33ms)という観測レートになります。他方、LiDARでは10Hz(100ms)程度の観測レートになります。利用するセンサの種類によって観測周期が異なるため、これらを統合して制御すべき対象の内部状態を時々刻々と推定しなければいけません。通常、最も遅い観測周期のセンサに周期を合わせており、他の観測情報は捨てられています。しかし、捨てられた情報には利用価値があり、短い周期で計測・制御を行えば、同じリソースで高い制御性能が実現できます。
 本研究では、複数の観測周期が混在するマルチレートシステムにおいて、全ての情報を利用し、より短い周期の下でシステムの内部状態を推定するための基礎的な状態推定器設計理論を提案しました。
 マルチレートシステムの状態推定器の設計問題を、応用数学の枠組みで解きやすいクラスの問題として知られている「線形行列不等式問題」に帰着させることで、多様なセンサを含む複雑な状態推定器の設計が実現できます。特に、自動運転など短い時間の中で多くの情報を処理する必要があるマルチセンサ系では、短い周期で得られる情報がより重要になるため、本研究成果の応用が期待できます。


【論文情報】

 本研究で提案された状態推定器の効果は、計算機シミュレーションによって確認されており、設計のための制御プログラムも論文掲載誌のページから入手可能な形で提供されています。本研究成果は、「IEEE ACCESS」に2023年2月27日(月)に掲載されました。

論文名:State Observer Under Multi-Rate Sensing Environment and Its Design Using l2-Induced Norm
著者:岡島寛,細江陽平,萩原朋道
掲載誌:IEEE ACCESS 2023年3月掲載(オープンアクセス誌)
    https://ieeexplore.ieee.org/document/10054014

【詳細】 プレスリリース(PDF581KB)

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