金属酸窒化物半導体ナノシートの合成と光吸収特性の制御に成功~光触媒、誘電体材料、エネルギー変換材料などへの応用展開が期待~

【ポイント】

  • 層状酸窒化物 *1の構造を剥離することで、ランタン、ニオブ、酸素、窒素からなる金属酸窒化物(LaNb2O7-xNx)半導体ナノシートの合成方法を開発しました。
  • 金属酸窒化物半導体ナノシートの酸素と窒素の組成比を制御することで、薄い黄色から橙色領域の光吸収特性を制御(2.03~2.63eVの範囲でバンドギャップを制御)できることを明らかにしました。
  • 酸窒化物半導体ナノシートを金属酸化物半導体ナノシートとハイブリッド積層させることで、酸窒化物ナノシートの水素生成に関する光触媒活性が向上することを発見しました。
  • 本研究で開発したバンドギャップ*2可変の酸窒化物半導体ナノシートは、電子デバイス材料や光エネルギー変換デバイス材料としての応用がも期待できます。

【概要説明】

 熊本大学産業ナノマテリアル研究所の伊田進太郎教授らの研究グループは、可視光応答性光触媒、電子デバイス材料、電極触媒、顔料などの材料として期待されるバンドギャップ制御可能な金属酸窒化物半導体ナノシート(主成分として金属元素と酸素元素、窒素元素を含む)を層状化合物の剥離反応を経由することにより合成する方法を開発しました。これまで多くのナノシートの研究がされてきましたが、金属酸窒化物半導体ナノシートは、剥離に必要な層状物質の合成や層剥離が難しいことから、二次元材料の研究分野で研究があまり進展していない材料群でした。本研究では、これらの課題に対し、化学的に比較的安定して紫外光から赤色領域の光(波長では約600ナノメートルよりも短い波長の光)を吸収できるカリウム、ランタン、ニオブを含む層状酸窒化物(K1+xLaNb2O7-xNx)の合成とそのナノシート化を達成するとともに、酸素と窒素の比を制御することでバンドギャップ可変の酸窒化物(LaNb2O7-xNx)半導体ナノシートを合成する手法を開発しました。さらに、酸窒化物ナノシートと酸窒化物ナノシート層が交互に積層した超格子構造を作製し、これらの複合体のプロトン伝導特性、誘電率特性、可視光照射下での水分解光触媒活性を明らかにしました。
    これらのナノシートは、太陽光を利用した水素製造、電子デバイス、燃料電池などの材料として期待できます。本研究成果は令和5年1月15日にWileyが発行する科学雑誌「Small」にオンライン掲載されました。

【今後の展開】

 本研究にて開発した酸窒化物半導体ナノシートの合成方法をさらに深化発展させることで、多種多様な酸窒化物ナノシートが合成できるようになり、半導体のバンドギャップだけでなく、キャリア濃度や移動度などの物性も制御できるようになる可能性があります。このような進化を遂げた半導体ナノシートは、高効率水分解光触媒の達成や電子デバイス、電極触媒等の材料として、持続可能社会の構築に貢献していくと期待されます。

【用語解説】

*1金属酸窒化物
  金属が酸素と窒素と結合した構造を持つ物質で、水分解光触媒、顔料、強誘電体材料として研究が進められている。
*2バンドギャップ
  半導体には電子に占有されたエネルギーバンド(価電子帯)と電子で満たされていないエネルギーバンド(伝導帯)がある。価電子帯と伝導帯の間にはエネルギー準位の存在しない領域があり、その幅をバンドギャップ(禁制帯)という。光の吸収特性はバンドギャップの大きさに影響を受ける。


【論文情報】

論文名:Bandgap Tunable Oxynitride LaNb2O7–xNx Nanosheets
著者:Chu-Wei Hsu, Takuro Miyano, Keisuke Awaya, Masayuki Tsushida, Kazuto Hatakeyama, Michio Koinuma, Shintaro Ida*  
掲載誌:Small
doi:10.1002/smll.202206552
URL:https:// doi.org/10.1002/smll.202206552

【詳細】 プレスリリース(PDF375KB)



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お問い合わせ
熊本大学産業ナノマテリアル研究所
担当:伊田 進太郎 教授
電話:096-342-3659
E-mail:ida-s※kumamoto-u.ac.jp

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