マルチレートセンサ環境下での高精度な数理モデル化に関する基礎理論の構築
【ポイント】
・マルチレートセンサ環境下でのシステム同定技術の基礎理論を構築
・サイクリック再定式化手法を用いた高精度なモデル化を実現
・自動運転システムや移動ロボットなどの複合センサシステムへの応用に期待
【概要説明】
熊本大学大学院先端科学研究部岡島寛准教授らは、異なるサンプリング周期を持つ複数のセンサを用いるマルチレートセンサ環境下でのシステム同定に関する研究成果を発表しました。
[取り組みの内容]
本研究では、サンプリング周期が異なる複数のセンサから得られる信号を用いて、制御対象の数理モデルを高精度に構築するシステム同定アルゴリズムを提案しています。マルチレートシステムを周期時変システムとして扱い、サイクリック再定式化手法により線形時不変系に変換することで、既存のシステム同定手法を適用可能にします。さらに、サイクリック構造の特性を利用した座標変換により、元のマルチレートシステムのモデルパラメータを導出します。
本研究成果は、「Journal of Robotics and Mechatronics」に2025年10月20日に掲載されました。
[背景]
近年の制御システムでは、多様な機能を持つ複数のセンサが組み込まれることが一般的です。これらのセンサは種類によってサンプリング周期が異なるため、入力と出力のデータに欠損値が生じる状況でのシステム同定が必要となります。従来のシステム同定理論は、線形時不変系を対象とした完全なデータセットを前提としており、マルチレートセンサ環境への対応は困難でした。特に移動ロボット制御においては、LiDAR、カメラ、IMUなど異なるサンプリング能力を持つセンサを統合したモデルベース制御の実現が重要課題となっています。
このような背景から、マルチレートセンサ環境下での数理モデル化技術の確立は、高度な制御システムの実現に不可欠です。
[成果]
本研究では、マルチレートシステムを周期時変システムとして表現し、サイクリック再定式化により時不変システムに変換する手法を開発しました。この変換により既存の部分空間同定法を適用し、得られたモデルパラメータに対して特別な座標変換を施すことで、元のマルチレートシステムの構造を復元します。数値シミュレーションにより、提案手法が高精度な同定を実現することを確認しています。従来手法と異なり、特定の周期入力信号を必要とせず、実用的なシステム同定が可能となります。
[展開]
自動運転システムや移動ロボットでは、複数の異なるサンプリング周期を持つセンサが使用されるため、本研究の手法をそのようなシステムのモデル化に直接応用することが可能です。数理モデルの存在を前提とした制御設計理論は数多く存在するため、本研究により高精度な数理モデルを構築できることで、工業分野や科学技術分野における制御技術の向上に寄与することが期待されます。また、IoTシステムやセンサネットワークなど、様々なサンプリング周期を持つセンサが統合されるシステムへの応用も期待されます。
【論文情報】
論文タイトル:System Identification Under Mult-irate Sensing Environments
論文著者:岡島寛,古川莉早,松永信智
掲載雑誌:Journal of Robotics and Mechatronics 2025年10月掲載(オープンアクセス誌)
URL:https://www.fujipress.jp/jrm/rb/robot003700051102/
JRM Vol.37 p.1102 (2025) | Fuji Technology Press: academic journal publisher
【詳細】 プレスリリース(PDF450KB)
図 1 提案したマルチレートシステムの数理モデリング手法(モデル化手順)
熊本大学 総務部総務課広報戦略室
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