新たな除草剤候補化合物クマモナミドを発見

【ポイント】

  • 放線菌※1に由来する天然化合物クマモナミドを発見し、全合成法を確立して様々な誘導体を合成し、強力な除草活性を持つ化合物KANDを開発しました。
  • クマモナミド及びKANDは植物細胞に必要な細胞内構造物である微小管※2を壊す活性を持ち、既知の除草剤とは異なる作用機序を持つことを発見しました。
  • クマモナミド及びKANDは雑草の防除に優れる一方でヒトの細胞や土壌中の微生物への毒性が少ないので人や環境に優しく、SDGsに貢献する除草剤の開発につながる可能性があります。

【概要説明】 

 熊本大学国際先端科学技術研究機構の石田喬志助教、檜垣匠准教授、熊本大学先端科学研究部の谷時雄教授、澤進一郎教授、石川勇人教授(現所属・千葉大学大学院薬学研究院)、微生物化学研究所の五十嵐雅之第2生物活性部部長らによる研究グループは、農薬開発に役立つ新たな天然化合物として、土壌微生物である放線菌の培養上清からN-アルコキシピロール化合物「クマモナミド」を発見しました。さらに、クマモナミドに分子構造の近い化合物を多数合成し、その中からクマモナミック酸が植物の成長を抑える活性を持つことを見いだしました。このクマモナミック酸を元にさらに強力な除草活性を持つ化合物の開発を進め、KANDという強力な成長阻害効果を持つ化合物の開発に成功しました。

 KANDは植物細胞に必要な細胞内構造物である微小管を壊し、植物細胞の細胞分裂を阻害して植物の成長を抑制する作用を示します。KANDの植物成長抑制作用はこれまでに報告されている除草剤とは異なるものであり、新たな除草剤開発に向けたリード化合物となり得ます。

 クマモナミドやKANDは多様な植物種に対して成長阻害効果を示す一方で、ヒトの培養細胞や細菌に対する顕著な毒性は示しませんでした。このため、クマモナミドは野外において除草剤として実用化された際に、ヒトにも環境にも負荷を与えないという点で大きなメリットにつながる可能性があります。

 本研究成果は、令和3年3月23日午前10時(英国時間)に科学雑誌「Scientific reports」に掲載されました。

 本研究は、科学技術振興機構(JST)A-STEP機能検証フェーズ試験研究タイプ「細菌由来新規アルカロイドを先導物質とした植物成長抑制剤の開発」の支援を受けて実施したものです。

 

【展開】

 クマモナミドやKANDは新たな作用機序を持つ化合物で、安価な材料から合成可能であることから、これまでにない除草剤の開発につながる可能性があります。既にクマモナミド関連化合物に関する特許を取得し、民間企業との産学連携研究開発による除草剤開発を開始しています。

【用語解説】

1:放線菌

放線菌は土壌中に生息する一群の微生物の総称で、様々な代謝物を合成する能力を持つことが知られている。これまでに放線菌に由来する多数の化合物が医薬品や農薬として利用されたり、新薬開発のリード化合物として活用されたりしている。

2:微小管

微小管は真核生物の細胞内に普遍的に存在する、細胞骨格と呼ばれる細胞内構造物の一種。動物・植物・微生物問わずほぼ同じ基本構造を持ち、細胞内の物質輸送や運動の制御、細胞分裂の装置となるなど必須の働きを担うことが知られている。植物細胞では細胞膜の内側表層に張り付いて表層微小管を形成する。

【論文情報】
・論文名:Discovery, characterization and functional improvement of kumamonamide as a novel plant growth inhibitor that disturbs plant microtubules
・著者名:Takashi Ishida, Haruna Yoshimura, Masatsugu Takekawa, Takumi Higaki, Takashi Ideue, Masaki Hatano, Masayuki Igarashi, Tokio Tani, Shinichiro Sawa, Hayato Ishikawa
・雑誌名:Scientific reports
・doi:10.1038/s41598-021-85501-1
・URL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-85501-1

【詳細】

プレスリリース本文(270KB)

お問い合わせ
熊本大学国際先端科学技術研究機構
担当:石田 喬志
電話:096-342-3436
e-mail: ishida-takashi※kumamoto-u.ac.jp
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