熊本地震に伴う地下水中のヘリウム異常と地殻の歪み変化
◆深層地下水中の同位体比の変化から推定したヘリウム増加量と地震による地殻の歪みとの間に定量的な関係を見いだした。
◆深層地下水のヘリウム同位体比を定期観測することで、地殻の歪み変化を事前に捕らえ、地震予知研究に貢献できる可能性がある。
 東京大学、京都大学、熊本大学、東北大学の研究グループは、多大な人的被害をもたらした2016年熊本地震の震源域近くで、地震後すぐに深さ1000mの地下水を採取し溶存する気体成分を分析しました。その中でヘリウムの同位体比(注1)が地震の前後で変化し、帯水層を構成する岩石が地震により破壊されることで、岩石中の放射性起源ヘリウムが地下水に付加されたと推定されました。そして地震による地殻の体積歪み(注2)変化量が大きいほど、ヘリウムの付加量が多いことを明らかにしました。
 
 これまでにも大地震の前後で地下水のラドンなど化学成分が変化することは知られていましたが、本研究では世界で初めてヘリウムの変化量を地殻の歪み量と関連づけて定量的に評価しました。
 
 地震が多発する日本において大地震のメカニズムを解明することは防災面からも重要であり、深層地下水や深海堆積物間隙水を利用することで、ヘリウム同位体から観測の難しい地殻の歪み変化を評価できる可能性があります。
 【用語解説】
 
 (注1)ヘリウムの同位体比
 
 ヘリウムには安定な同位体が2個あり、その比(
 
  3
 
 He/
 
  4
 
 He比)をヘリウムの同位体比と呼んでいる。
 
  3
 
 He はマントル起源の物質であり火山活動を評価するのに用いられる。一方
 
  4
 
 He は地殻中のウランやトリウムが放射壊変することで生成され、地殻を構成する岩石中に多い。地下水にこれらの物質が混合することで
 
  3
 
 He/
 
  4
 
 He比が変化する。
 
 (注2)歪み
 
 外から何らかの力が加わることで岩盤が変形することを歪みと呼び、歪みにより変化する体積の割合を体積歪み変化量と呼ぶ。
 
 
 【雑誌名】
 
  
   Scientific Reports
  
 
 (オンライン版:11月29日)
 
 
 【論文名】
 
 Groundwater helium anomaly reflects strain change during the 2016 Kumamoto earthquake in Southwest Japan
 
 
 DOI番号:10.1038/srep37939
 
 
 【著者名】
 
 Yuji Sano*, Naoto Takahata, Takanori Kagoshima, Tomo Shibata, Tetsuji Onoue, Dapeng Zhao
 
 
 【詳細】
 
  プレスリリース本文
 
 (PDF 408KB)
 
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