酸化グラフェンによる新型コロナウイルスの抑制-炭素材料からなる抗ウイルス製品開発に期待-

【ポイント】

  • 新型コロナウイルスに対する酸化グラフェンの高い吸着力と抗ウイルス効果を発見
  • 酸化グラフェンによる新型コロナウイルス不活性化のメカニズムを解明
  • With/Postコロナ時代を見据えた、酸化グラフェンを用いた抗ウイルス製品開発に期待

【概要説明】

 熊本大学大学院先端科学研究部の速水真也教授、同大学院自然科学教育部博士後期課程2年の福田将大大学院生、同ヒトレトロウイルス学共同研究センターの池田輝政准教授、同大学院生命科学研究部の福田孝一教授、同産業ナノマテリアル研究所のMd. Saidul Islam特任助教らの研究グループは、新型コロナウイルスに対する酸化グラフェン*1の高い吸着力と抗ウイルス効果を発見し、ウイルス不活性化のメカニズムを実験的に明らかにしました。

 研究グループはまず、プラークアッセイ法*2およびリアルタイムRT-PCR法*3により、酸化グラフェンが、新型コロナウイルスの感染性を98%減少させることを見出しました。また、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた観察および、新型コロナウイルス構成タンパク質の定量解析により、酸化グラフェンによるウイルス不活性化のメカニズムを初めて明らかにしました。さらに酸化グラフェンを塗布したフィルターへのウイルス活性評価を行ったところ有意性が確認されました。したがって、酸化グラフェンを使用した不織布マスクやフィルター、塗布材等の抗ウイルス製品の開発は、With/Postコロナ社会*4基盤の確立へ貢献することが期待されます。

 本研究結果は、令和3年10月14日に学術雑誌「ACS Applied Nano Materials」にオンライン公開され、本学術論文はSupplementary Coverに選出されました。なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金、日本学術振興会 卓越研究員事業、科学技術振興機構 (JST) 研究成果最適展開支援プログラム (A-STEP、JPMJTM20SL)、熊本大学COVID-19研究プロジェクト(アマビエ研究推進事業)などの支援を受けて行われました。

【用語解説】

*1:酸化グラフェン
酸化グラフェンとは、黒鉛を酸化させることにより得られ、厚さはおよそ1 nm、サイズは1~20 mmのシート状の素材です。そのため、高い表面積を有し、表面に存在する酸素官能基により親水性や電気絶縁性を示します。

*2:プラークアッセイ法
被験物質中のウイルスの感染能を測定するのに用いる定量法の1つです。ウイルスが標的細胞に感染すると細胞が壊死しますが、寒天などでウイルスが広がらないようにして培養すると点状に細胞変性が起こります。この点 (プラーク) を数えることにより、ウイルスの量を定量することができます。

*3:リアルタイムRT-PCR法
PCR法は、DNA配列上の特定の領域 (目的領域) を、耐熱性DNAポリメラーゼを用いて数百万から数十億倍に増幅させる方法です。RT-PCR法は、RNAに対してPCRを行う手法です。リアルタイムPCRは、DNA増幅産物を定量できる方法で、感染性病原体(ウイルス)の定量などが可能です。

*4:With/Postコロナ社会
新型コロナウイルス感染症の影響により、様々な産業の動向や日々の生活が急遽大きく変化しました。「With コロナ社会」は当面の間ウイルスとの共存を求められる社会、「Post コロナ社会」は、ある程度収束し社会全体が変化する社会を指しています。

【論文情報】

論文名:Lethal Interactions of SARS-CoV‑2 with Graphene Oxide: Implications for COVID-19 Treatment
著者:Masahiro Fukuda#, M. Saidul Islam#, Ryo Shimizu, Hesham Nassar, Nurun Nahar Rabin, Yukie Takahashi, Yoshihiro Sekine, Leonard F. Lindoy, Takaichi Fukuda*, Terumasa Ikeda*, and Shinya Hayami*
(#: equal contribution, *: equal correspondence)
掲載誌:ACS APPLIED NANO MATERIALS
doi:doi.org/10.1021/acsanm.1c02446
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsanm.1c02446


【詳細】
プレスリリース(PDF668KB)

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熊本大学大学院先端科学研究部
担当:速水真也
電話:096-342-3469
e-mail:hayami※kumamoto-u.ac.jp
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