自閉スペクトラム症に関わる脳内免疫細胞を発見ASDモデルマウスでγδT細胞が脳に集まり、社会性行動の異常に関わることを解明
(ポイント)
- 自閉スペクトラム症(ASD)は神経発達障害の一つであるが、その発症機構には未解明な点が多く、近年、脳と免疫細胞の関わりが注目されている。
- ASDモデルマウスを用いて、CXCL16(※1)を介して発達期の脳にIL-17A(※2)を産生するγδT(※3)細胞が集まり、ASD様の社会行動異常を促すことを発見した。
- 本成果は、ASDを神経系だけでなく免疫系との相互作用から理解する新しい視点を示し、免疫細胞を標的とした新たな診断・治療法の開発につながると期待される。
(概要説明)
従来、自閉スペクトラム症(ASD)は、主に神経細胞や神経回路の異常によって起こる神経発達障害と考えられてきました。一方で近年、妊娠中の感染症や炎症など、免疫系の変化が脳の発達や行動に影響する可能性が注目されています。しかし、遺伝的要因によるASDにおいて、免疫細胞がどのように脳へ作用し、社会性行動の異常に関わるのかは十分に分かっていませんでした。
今回、研究グループは、ASDに関連する染色体異常を再現したモデルマウスにおいて、発達期の脳に特定の免疫細胞が集まり、社会性行動の異常を促す新たな仕組みを明らかにしました。
九州大学生体防御医学研究所の伊藤美菜子准教授、高山夏海大学院生(当時)、神戸大学内匠透教授、熊本大学牧之段学教授、奈良県立医科大学山室和彦病院教授、浜松医科大学牧野顕教授らの研究グループは、ASDモデルマウスの発達期の脳を解析し、通常より多くのγδT細胞が脳に集まっていることを発見しました。さらに、脳内の免疫細胞であるミクログリア(※4)が産生するCXCL16が、γδT細胞を脳へ呼び寄せることを明らかにしました。脳に集まったγδT細胞は、炎症に関わる物質であるIL-17Aを産生していました。加えて、γδT細胞やIL-17Aの働きを抗体で抑えると、ASDモデルマウスでみられる社会性行動の異常が改善しました。
今回の発見は、ASDを神経細胞だけの異常としてではなく、脳と免疫細胞の相互作用から理解する新しい視点を示すものです。今後、脳内免疫細胞やIL-17Aシグナルを標的とした、ASDの新たな診断法や治療法の開発に役立つことが期待されます。
本研究成果は、米国の科学雑誌「Science Immunology」に2026年6月19日(米国東部時間)に掲載されました。
【研究の背景と経緯】
自閉スペクトラム症(ASD)は、人との関わり方やコミュニケーションの難しさ、強いこだわりや反復的な行動などを特徴とする発達障害です。近年、ASDと診断される人は増えていますが、なぜASDが起こるのかについては、まだ分かっていないことが多く、根本的な治療法も確立されていません。
これまでASDは、主に脳の神経細胞や神経回路の異常によって起こると考えられてきました。一方で最近、体を守る働きをもつ免疫細胞が、脳の発達や行動にも影響している可能性が注目されています。特に、妊娠中の感染症や炎症などによって免疫の状態が変化すると、胎児や子どもの脳の発達に影響することが報告されています。しかし、これまでの研究の多くは、感染や炎症などの環境要因に着目したものでした。ASDには遺伝的な要因も関わることが知られていますが、遺伝的な背景を持つASDにおいて、免疫細胞が脳の発達や行動にどのように関わるのかは、よく分かっていませんでした。
そこで本研究では、ヒトASDに関連する染色体15q11-13重複を再現したマウス(15q dupマウス)を用いて、発達期の脳にどのような免疫細胞が存在するのかを調べました。その結果、特定の免疫細胞が脳に集まり、炎症に関わる物質を介して社会性行動の異常に関与することが明らかになりました。本研究は、ASDを脳の神経細胞だけの問題としてではなく、脳と免疫細胞の相互作用から理解する新しい視点を示すものです。
【研究の内容と成果】
本研究グループは、15q dupマウスを用いて、発達期の脳にどのような免疫細胞が存在するのかを詳しく調べました。その結果、15q dupマウスの脳では、通常のマウスに比べてγδT細胞という免疫細胞が増えていることを発見しました(図2)。
次に、なぜγδT細胞が脳に集まるのかを調べました。その結果、15q dupマウスでは、脳の免疫細胞であるミクログリアの状態が変化し、CXCL16という物質を多く産生していることが分かりました。γδT細胞はCXCL16に反応する受容体CXCR6を持っており、ミクログリアが産生するCXCL16に引き寄せられるようにして、発達期の脳へ集まることが明らかになりました。
さらに、脳内に集まったγδT細胞の局在と働きを解析しました。その結果、γδT細胞は海馬(※5)周辺に集まり(図3)、IL-17Aという炎症に関わる物質を産生していることが分かりました。IL-17Aは神経細胞や脳内環境に作用する可能性があり、発達期の脳における免疫細胞の異常な働きが、社会性行動の変化につながることが示唆されました。
最後に、これらの仕組みが実際にASD様の行動に関わるのかを検証しました。まず、γδT細胞の一種であるVγ6陽性γδT細胞を欠損するマウスと15q dupマウスを掛け合わせたところ、社会性行動の異常が改善しました(図4)。さらに、CXCL16、Vγ6陽性γδT細胞、またはIL-17Aの働きを抗体で抑えると、脳へのγδT細胞の集積やIL-17Aの作用が抑えられ、15q dupマウスでみられる社会性行動の異常が改善しました。これにより、ASDを神経細胞だけの異常としてではなく、脳と免疫細胞の相互作用から理解する新しい仕組みが明らかになりました。
【今後の展開】
本研究はマウスモデルを用いた基礎研究であり、今回見つかった仕組みがヒトのASDにも当てはまるかについては、さらなる検証が必要です。今後は、ASD患者さんの検体やヒトデータを用いて、γδT細胞、IL-17A、CXCL16に関連する免疫シグナルが実際に変化しているかを調べていきます。
本成果は、ASDを脳と免疫細胞の相互作用から理解する新しい視点を示すものです。将来的には、免疫状態に基づく診断補助や、新たな治療・予防戦略の開発につながることが期待されます。
【用語解説】
(※1)CXCL16
ケモカインと呼ばれるタンパク質の一種。特定の免疫細胞を引き寄せる働きがある。
(※2)IL-17A
インターロイキン17A(Interleukin-17A)。免疫細胞が産生するサイトカインの一種で、炎症反応を促進する働きがある。自閉症に関わることが知られている。
(※3)γδT細胞
T細胞の一種。一般的なT細胞とは異なるT細胞受容体γδ鎖を持ち、感染防御や炎症反応に関わる。
(※4)ミクログリア
脳や脊髄に存在する免疫細胞。不要な細胞や物質を取り除くだけでなく、神経細胞の周囲の環境を整え、脳の発達や神経回路の形成にも関わる。
(※5)海馬
記憶や学習に重要な脳の領域。社会性行動にも関わることが知られており、相手を記憶したり、他個体との関わり方を調節したりする神経回路の一部として働くと考えられている。
【謝辞】
本研究は、文部科学省共同利用・共同研究拠点事業、九州大学生体防御医学研究所 高深度オミクス医学研究拠点事業、CURE(JPMXP1323015486)の支援を受けて実施されました。また、JSPS科研費(JP21H02719、JP21H00432、JP21H05044、JP21K19382、JP22H05061、JP23H04785、JP24K02264、JP24K22058、JP25H01865:伊藤美菜子、JP23H04173、JP24K02386:牧之段学)、ムーンショット型研究開発事業(21zf0127003、26zf0127012h:伊藤美菜子、JPMJMS239F-1-2:牧之段学)、AMED-PRIME(JP22gm6210012:伊藤美菜子)、AMED(JP21wm0425011:伊藤美菜子、内匠透、牧之段学、24gm1510009s0103、24gm1910004h0002:牧之段学)、AMED-CREST(22gm1510009h0001、24gm1910004s0402:牧之段学)、AMED-Brain/MINDS2.0(JP24wm0625510:伊藤美菜子)、JST(JP21470411:伊藤美菜子)、ならびに化学及血清療法研究所、千里ライフサイエンス財団、三菱財団、上原記念生命科学財団、稲盛財団、中外創薬科学財団(伊藤美菜子)の助成を受けたものです。
【論文情報】
掲載誌:Science Immunology
タイトル:CXCL16-mediated recruitment of γδ T cells to the brain reduces sociability in mice
著者名:Natsumi Takayama, Koyomi Shiraishi, Ako Matsui, Shinya Hatano, Kazuhiko Yamamuro, Kenta Nitahara, Akira Makino, Tatsuya Yokota, Nesta Amagiri, Mahiro Watanabe, Ayame Nagafuchi, Mio Kawazoe, Minami Serino, Yoshihiro Harada, Tomoaki Takao, Kakeru Takenobu, Yasunobu Yoshikai, Kazufumi Kunimura, Manabu Makinodan, Toru Takumi, Minako Ito
DOI:10.1126/sciimmunol.adz8466
【詳細】 プレスリリース(PDF715KB)
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