1つの細胞の個性をタンパク質発現量から読み解く技術を開発

【ポイント】

  • 1つの細胞に含まれる極微量のタンパク質を観察するために、前処理方法として油中液滴法を新たに開発しました。
  • 油中液滴法を使うことで、従来法では困難だった1つの細胞に含まれる極微量タンパク質の大規模な分析を可能にしました。
  • 細胞個々の特徴をタンパク質レベルで観察することで、将来的には抗がん剤耐性機構や細胞分化機構の解明に貢献できます。

【概要説明】
 熊本大学大学院生命科学研究部の増田豪助教、大槻純男教授らのグループは、1つの細胞からタンパク質発現情報を大規模に取得できる新しい技術を開発しました。

 タンパク質発現情報を大規模に取得するプロテオミクス※1技術は近年、多くの生命科学研究に有用な分析手法です。例えば、がん細胞を正常細胞と比較することで、がん細胞に特徴的なタンパク質を見つけることができ、早期診断や治療標的探索などにつながります。しかし、同じがん細胞でもタンパク質の発現情報に個性があり、それが薬の効きやすさに影響を与えるため、がんの根治を難しくしています。薬の主な作用標的はタンパク質であるため、細胞個々のタンパク質発現情報を取得することが求められますが、現在行われているプロテオミクスでは1つの細胞に含まれる極微量のタンパク質を取り扱うことは困難です。その理由は、極微量のタンパク質が実験中に容器に吸着されて無くなってしまうためです。

 そこで、私たちは「油中液滴法」を開発しました。油の中に形成した微少な水滴の中に極微量のタンパク質を閉じ込めて実験する方法です。水滴と容器が接する面積は従来の方法よりも小さくなるため、吸着損失を大幅に抑制することができました。これにより、1つの細胞からでもプロテオミクスを行うことができるようになりました。本研究成果は令和4年7月11日に「Analytical Chemistry」に掲載されました。

 本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(17K15042、19K05544)、JST A-STEP育成 (JPMSTR20UM)、JST 創発的研究支援事業 (JPMJFR2055)、COCKPI-T Funding、JST-CREST(JP171024167)およびNIH(R01AR065459、R01GM129090)の支援を受けて実施したものです。

[用語解説]

1 プロテオミクス:細胞や組織中に含まれるタンパク質を網羅的に観察する技術や研究分野。

 
【論文情報】
論文名 Water droplet-in-oil digestion method for single-cell proteomics
著者名 Takeshi Masuda, Yuma Inamori, Arisu Furukawa, Maki Yamahiro, Kazuki Momosaki, Chih-Hsiang Chang, Daiki Kobayashi, Hiroto Ohguchi, Yawara Kawano, Shingo Ito, Norie Araki, Shao-En Ong, Sumio Ohtsuki
掲載誌 Analytical Chemistry
doi:10.1021/acs.analchem.1c05487
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.1c05487

 
【詳細】 プレスリリース(PDF264KB)



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熊本大学大学院生命科学研究部微生物薬学分野
助教 増田 豪
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