東京医科大学・熊本大学・東京医科歯科大学の共同研究チーム「免疫チェックポイント阻害抗体の新たな効果判定方法を開発」~実際の抗体の至適濃度や複数種抗体併用などin vitro効果判定に期待~
【ポイント】
- ヒトの免疫チェックポイント分子PD-1で構成されるT細胞抑制性シグナル伝達分子の集合体「PD-1マイクロクラスター」の1細胞1分子観察に成功しました。
- 治療で使用される免疫チェックポイント阻害(ICB)抗体の、PD-1-PD-L1/L2結合に対する阻害効果を、分子イメージングによる新しい手法で評価しました。
- 抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体はそれぞれのクローンによって、PD-1-PD-L1結合を阻害するために必要とする濃度にばらつきがあることが分かりました。
【概要】
東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)免疫学分野 横須賀忠主任教授、熊本大学大学院医学教育部博士課程4年 西航(にしわたる)大学院生、熊本大学大学院生命科学研究部呼吸器外科・乳腺外科学 鈴木実教授、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子免疫学分野 東みゆき教授を中心とする研究チームは、がん特異的T細胞を抑制する免疫チェックポイント分子の集合体(PD-1マイクロクラスター)の超解像分子イメージング観察を行い、免疫チェックポイント阻害(ICB)抗体の新たなin vitro効果判定方法を開発しました。この研究は日本学術振興会科学研究費補助金の支援のもとで行われたもので、その研究成果は国際科学誌 Nature Communications(IF=17.694)のオンライン版に2023年6月6日付けで掲載されました。この成果によって、ICB療法における実際の抗体の至適濃度や複数種の抗体を併用する以前の、より科学的な検証が期待できます。
【今後の研究展開および波及効果】
現在治療に使われている免疫チェックポイント分子阻害(ICB)抗体には、①標的抗原や、②抗原結合部位(エピトープ)の違いの他、③アイソフォーム、④抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)の有無、⑤ヒト化抗体へのキメラ化などの違いにより、それぞれ機能的特徴があると考えられています(図7)。特にアイソフォームやADCC活性の有無の違いは、ICB抗体の生体内での動態に強く影響します。これらの点を考慮すると、本研究のようなin vitroの実験系で導き出された結果には、実臨床に即さない側面も残されています。しかし、実際にヒトに投与する治験では細かな条件設定が難しいこと、また新規治療薬同士を直接比較することは社会的にも困難です。ゆえに、本研究でその有用性を実証した1細胞1分子イメージングシステムを用い、抑制性PD-1マイクロクラスターの動態を観察することは、in vitroで行える簡便な機能評価として、新規開発薬のドラッグスクリーニングにおける強力なツールと考えます。この「人工がん細胞脂質二重膜」はキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞や二重特異性抗体(BiTE)へも応用でき、今後がん治療における新規生物製剤やデザイン開発においても応用が期待されます。
【掲載誌名・DOI】
掲載誌名:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-023-38512-7
【論文タイトル】
Evaluation of therapeutic PD-1 antibodies by an advanced single-molecule imaging system detecting human PD-1 microclusters
【著者】
Wataru Nishi, Ei Wakamatsu, Hiroaki Machiyama, Ryohei Matsushima, Kensho Saito, Yosuke Yoshida, Tetsushi Nishikawa, Tomohiro Takehara, Hiroko Toyota, Masae Furuhata, Hitoshi Nishijima, Arata Takeuchi, Miyuki Azuma, Makoto Suzuki, Tadashi Yokosuka
【主な競争的研究資金】
本研究は、文部科学省基盤研究(JP25113725, JP15H01194, JP16H06501, JP17H03600, JP19K22545, JP20H03536, JP23H02775)、さきがけ慢性炎症(U1114011)、新学術領域「ネオ・セルフ」(JP16H06501)、学術変革A「自己指向性免疫」(JP23H04790)、「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」(S1511011)、内藤記念科学振興財団、武田科学振興財団の支援を受けています。
【詳細】 プレスリリース(PDF1557KB)
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