プロスタグランジン受容体の立体構造を世界初解明 アスピリンより有効で、副作用の少ない「スーパー・アスピリン」開発に道

【概要】

 学校法人関西医科大学(大阪府枚方市 理事長・山下敏夫、学長・友田幸一)医化学講座清水(小林)拓也教授、豊田洋輔研究員、森本和志研究員らの研究グループは、国立大学法人京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学分野岩田想教授、同大学医学研究科創薬医学講座成宮周特任教授、国立大学法人熊本大学大学院生命科学研究部薬学生化学分野杉本幸彦教授らとの共同研究により、急性炎症の痛みや腫れ、発熱、さらに動物のストレス行動、慢性炎症※1やがんにも関与するプロスタグランジン(PG)※2の、受容体の立体構造を世界で初めてX線結晶構造解析※3によって解明しました。本件成果は、多くの薬物の開発が期待されている標的分子・プロスタグランジン受容体の「形」が原子レベルで明らかになったことで、今後その立体構造を基に慢性炎症、がん、精神疾患などに対して、より有効性が高く副作用の少ない治療薬の探索・設計が可能になると期待されます。
 なお、本件研究成果をまとめた論文二報が、米国科学誌「Nature Chemical Biology」(インパクトファクター:13.843)に12月3日(月)11時(米国東部標準時)付で掲載されます(日本時間12月4日(火)午前1時)。

【ポイント】

  • 急性炎症だけでなく慢性炎症やがんにも深く関与することが知られているプロスタグランジン受容体の、X線結晶構造解析に世界で初めて成功した。
  • 生理活性物質※4であるPGE2受容体(EP4)の拮抗薬※5はこれまでの薬物とは異なった機序でがんの免疫回避を抑制する。この治療薬(EP4拮抗薬)が結合したEP4の立体構造を解明した。
  • PGE2-EP4シグナルを阻害する抗体は、EP4の細胞外領域(アロステリック部位※6)に結合していた。
  • 生理活性物質であるPGE2がPGE2受容体(EP3)に結合した立体構造を解明した。

    ※1: ケガをすると充血して赤くなり、腫れて痛みを感じるようになる。これが炎症と呼ばれる状態で、比較的早期に収まる炎症を急性炎症とよび、なかなか終息しない炎症を慢性炎症とよぶ。最近では、慢性炎症と病気についての因果関係が徐々にわかってきた。
    ※2: 体内の受容体に結合することで発赤や熱感、腫脹、痛みなどの局所反応から、発熱、倦怠感、食欲不振などの全身反応までを引き起こす生理活性物質の一つ。解熱鎮痛剤として知られる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、PG合成酵素を阻害することで一連のPG(PGD, PGE, PGF, PGI)の生合成を抑え、効果を発揮する。
    ※3: 解析対象のたんぱく質を結晶化し、X線照射によって得られる回折データから、たんぱく質の原子レベルでの立体構造を決定する手法。
    ※4: 人や動物の体内で生理的調節機能に働きかける化学物質のこと。病気の治療に用いられる薬や殺虫剤・防虫剤、農薬、植物の成長促進剤など、身近なところで活用されている。
    ※5: 体内の受容体(化学物質と結合して何らかの作用を起こすきっかけとなる部位)に結合することで、受容体の本来の働きを阻害する物質のこと。花粉症の症状緩和に使われる抗ヒスタミン薬(商品名「アレグラ®」)などが著名。
    ※6:受容体の基質(内在性リガンド)が結合する場所とは異なる場所で、そこに結合する物質によって受容体機能が影響を受ける場所。リガンドとは、特定の受容体に特異的に結合する物質のこと。近年、アロステリック制御因子(リガンド)は新しいクラスの医薬品として注目されている。

 【書誌掲載情報】

掲載誌:
    「Nature Chemical Biology」 NCHEMB-A171206880B
論文タイトル:
    Ligand binding to human prostaglandin E receptor EP4 at the lipid-bilayer interface
共著者情報:
    Yosuke Toyoda; Kazushi Morimoto; Ryoji Suno; Shoichiro Horita; Keitaro Yamashita; Kunio Hirata; Yusuke Sekiguchi; Satoshi Yasuda; Mitsunori Shiroishi; Tomoko Shimizu; Yuji Urushibata; Yuta Kajiwara; Tomoaki Inazumi; Yunhon Hotta; Hidetsugu Asada; Takanori Nakane; Yuki Shiimura; Tomoya Nakagita; Kyoshiro Tsuge; Suguru Yoshida; Tomoko Kuribara; Takamitsu Hosoya; Yukihiko Sugimoto; Norimichi Nomura; Miwa Sato; Takatsugu Hirokawa; Masahiro Kinoshita; Takeshi Murata; Kiyoshi Takayama; Masaki Yamamoto; Shuh Narumiya; So Iwata; Takuya Kobayashi

掲載誌:
    「Nature Chemical Biology」 NCHEMB-BC180708054A
論文タイトル:
    Crystal structure of the endogenous agonist–bound prostanoid receptor EP3
共著者情報:
    Kazushi Morimoto; Ryoji Suno; Yunhong Hotta; Keitaro Yamashita; Kunio Hirata; Masaki Yamamoto; Shuh Narumiya; So Iwata; Takuya Kobayashi


【詳細】

プレスリリース本文(PDF1811KB)

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