細胞外マトリクスを介した新しいメカノトランスダクション機構を発見~血管疾患への新たな治療法開発への期待~

 熊本大学大学院生命科学研究部微生物薬学分野の大槻純男教授は、国立大学法人筑波大学 生存ダイナミクス研究センター(TARA)の柳沢裕美教授、山城義人助教、国立大学法人茨城大学 大学院理工学研究科マイクロ-ナノバイオメカニクス研究室の長山和亮教授らの研究グループとともに、メカニカルストレス応答の中心を担う、転写調節因子YAP (Yes-associated protein)の核内移行(活性化)を、細胞外マトリクスThbs1が制御し、血管のメカノトランスダクション機構において、重要な働きを担うことを明らかにしました。

 血管壁は絶えず血圧や血流による血行力学的応力にさらされており、その制御機構の破綻が血管疾患の根本原因ではないかと注目されていますが、その制御メカニズムの詳細は明らかになっていないのが現状です。本研究グループはまず、ラット血管平滑筋細胞を用いて、周期的伸展刺激によって分泌されるタンパク質を網羅的に解析し、Thbs1を同定しました。分泌されたThbs1は細胞膜上のintegrin αvβ1に結合し、接着斑の活性化やアクチンフィラメントの配向といった伸展刺激応答を制御することを見出しました。加えて、伸展刺激におけるYAPの核内移行は、Thbs1/integrinに依存し、Rap2の不活性化を伴って制御されていること、さらに、Thbs1/integrin/YAPのシグナル伝達経路は、血管圧負荷や狭窄に伴う新生内膜形成時の血管リモデリングに重要な働きを示すことを明らかにしました。本研究は、メカニカルストレス応答に関与する細胞外マトリクスの役割とその制御が、様々な血管疾患の根本原因である可能性を示唆するものであり、今後、細胞外マトリクスを標的とした新たな治療法開発の展開が期待されます。

 本研究成果は、2020年4月22日付 Proc. Natl. Acad. Sci. USA誌で先行公開されました。

*本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金(科研費):基盤研究B(課題番号17H04289:柳沢裕美)、および若手研究(課題番号15K20898:山城義人)、などの支援によって実施されました。

【論文情報】
・タイトル:Matrix mechanotransduction mediated by thrombospondin-1/integrin/YAP in the vascular remodeling
  (トロンボスポンジン1を介した血管のメカノトランスダクション機構の解明)
・著者:Yoshito Yamashiro, Bui Quoc Thang, Karina Ramirez, Seung Jae Shin, Tomohiro Kohata, Shigeaki Ohata,Tram Anh Vu Nguyen, Sumio Ohtsuki, Kazuaki Nagayama, and Hiromi Yanagisawa
・雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, DOI: 10.1073/pnas.1919702117)
・詳細:プレスリリース本文(613KB)

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