小児がんの横紋筋肉腫の悪性度を決める分子メカニズムを解明~希少がん・難治がんの治療法開発に光明~

【ポイント】

  • 小児がんである横紋筋肉腫の悪性度が増強する分子機構として、CDKAL1によるタンパク質発現機構ががん幹細胞性因子SALL2の発現を促進することを発見した。
  • CDKAL1によるSALL2の発現増強は、横紋筋肉腫のほか、悪性黒色腫や悪性脳腫瘍などの難治がんにおいても確認された。
  • CDKAL1を介したタンパク質発現機構の阻害剤を複数発見した。

【概要説明】

 横紋筋肉腫は、小児がんにおける軟部悪性腫瘍としては最も頻度が高いものの、本邦での年間発症数は100人程度と推定されており、いわゆる希少がんに分類されます。この希少性ゆえ、横紋筋肉腫の悪性度を決定づける分子メカニズムの研究や新たな治療法の開発が十分に行われていないのが現状です。

 岡山大学学術研究院医歯薬学域の藤村篤史助教らのグループは、熊本大学大学院生命科学研究部の富澤一仁教授らとの共同研究により、横紋筋肉腫の悪性度を決める分子機構として、CDKAL1(1)による遺伝子発現機構ががん幹細胞集団(2)を増幅させていることを突き止めました。CDKAL1はもともと2型糖尿病と関連する因子として富澤教授らによって機能解析されてきましたが、がんにおける役割は不明でした。今回、藤村助教らのグループは、CDKAL1が横紋筋肉腫のがん幹細胞性を司るSALL2というタンパク質の発現を増強する作用を見出し、この作用を阻害する化合物を複数発見しました。重要なことに、CDKAL1によるがんの悪性度増強作用は、悪性黒色腫、肝臓がん、前立腺がん、胃がん、悪性脳腫瘍でも確認されました。本研究成果は、希少がんである横紋筋肉腫やその他の難治がんにおける治療法開発につながることが強く期待されます。本研究成果は、2023年2月14日(火)17時に国際科学誌「Advanced Science」のオンラインサイトに掲載されました。

 

【社会的な意義】

 本研究で私たちは、小児に発生する希少がんである横紋筋肉腫の悪性度を増強する分子メカニズムとして、CDKAL1による翻訳開始因子複合体の形成促進作用を発見しました。このメカニズムは悪性黒色腫や悪性脳腫瘍などの難治がんにおいても同様でした。私たちが発見した分子メカニズムを阻害するような化合物の開発が実現できれば、がん幹細胞を直接抑え込むことで抗がん作用を発揮するといった、これまでにない革新的な抗がん剤を開発することができるかもしれません。

 前述の通り、横紋筋肉腫は患者さんの数が少ないがん種であります。希少がんに対する基礎研究は、患者数の多い他のがん種に比べて劇的な発展を遂げにくいのが現状でありますが、私たちはこうした疾患に対しても新たな治療戦略を提案できるよう、基礎研究グループと臨床研究グループが協力してプロジェクトを進めて参ります。

 

【研究資金】

 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号JP20K07618、研究代表:藤村篤史)、日本医療研究開発機構次世代がん医療創生研究事業(課題番号JP18cm0106143、JP20cm0106179、研究代表:藤村篤史)、および内藤記念科学振興財団のご支援を受けて実施しました。

 

【用語解説】

(1) CDKAL1

 もともとは、アジア人に多い2型糖尿病の発症リスクと関連する因子として注目を集めました。2011年に富澤教授らのグループによって、CDKAL1が特定のtRNAをチオメチル化する酵素であることが発見され、インスリン分泌量に関与していることが報告されました。今回私たちが発表している研究内容においては、CDKAL1が有するtRNA修飾活性とは関係なく、CDKAL1の構造そのものが翻訳開始因子複合体eIF4Fの形成を促進することがわかりました。

(2) がん幹細胞集団

 がん組織においては、全体の0.1〜1%の割合でがん幹細胞と呼ばれる集団がいることが知られています。がん幹細胞は、自分自身をコピーする能力(自己複製能)・未分化な状態を保つ能力(未分化維持能)・新たにいちからがん組織を作り出す能力(造腫瘍能)・抗がん剤や放射線に抵抗する能力(治療抵抗能)に長けた細胞集団として知られています。再発や転移の元凶であると考えられていることから、これらをターゲットにできる抗がん剤治療方法の開発が進められています。

 

【論文情報】

  • 論文名:CDKAL1 drives the maintenance of cancer stem-like cells by assembling the eIF4F translation initiation complex
  • 著者名:Huang R, Yamamoto T, Nakata E, Ozaki T, Kurozumi K, Wei FY, Tomizawa K, Fujimura A.
  • 掲載誌:Advanced Science
  • doi:10.1002/advs.202206542
  • URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202206542

 
【詳細】 プレスリリース(PDF734KB)



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熊本大学大学院生命科学研究部
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