食中毒を引き起こす細菌の毒素SubABが宿主免疫を抑制する仕組みを解明

【ポイント】

  • 腸管出血性大腸菌が作るSubABという毒素が宿主の免疫力を低下させ、感染を増悪させることを発見した。
  • SubABはインフラマソームという免疫複合体の活性阻害を介して、免疫調節因子であるインターロイキンの産生を抑制していた。
  • 本研究の成果は、今後起こりうるSubAB産生病原菌による感染症の治療に役立つことが期待される。

【概要説明】

 熊本大学大学院生命科学研究部微生物学講座の津々木博康助教、澤智裕教授らのグループは、京都薬科大学、国立感染症研究所、東北大学との共同研究により、腸管出血性大腸菌が産生する毒素subtilase cytotoxin(SubAB)の新しい病原性発現メカニズムを明らかにしました。

 SubABは、一部の腸管出血性大腸菌1が産生する毒素ですが、感染病態におけるその病原性についてはほとんど分かっていませんでした。本研究では、SubABが宿主の免疫力を低下させ、それによって宿主による病原菌の排除を妨げていることを発見しました。菌が分泌したSubABは、インフラマソーム2と呼ばれる免疫複合体の作用を阻害し、その結果、インターロイキン(interleukin; IL)と呼ばれる免疫調節因子の産生が顕著に低下することを明らかにしました。

 本研究の成果は、腸管出血性大腸菌感染病態におけるSubABの病原性のひとつを明らかにしたものであり、これまで知られていなかった毒素を介した細菌の生存メカニズムの解明に繋がると考えられます。また今後起こりうる新たな感染症の発症メカニズムの理解とそれを標的とした治療戦略の構築に大きく貢献することが期待されます。

 本研究成果は、令和4年3月23日に、Cell Pressが発行する国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。本研究は、科学研究費補助金ならびに武田科学振興財団などの支援を受けて行われました。

【用語解説】

(注1)腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli;EHEC):

出血性の腸炎や溶血性尿毒症症候群など重篤な合併症をおこす病原性の大腸菌。志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin-producing E. coli;STEC)とも呼ばれる。血清型としてO157が有名だが、ほかにもO26、O111、O113など多くの血清型による集団食中毒事例が世界中で報告されている。

(注2)インフラマソーム:

免疫調節因子として働くインターロイキン-1βおよびインターロイキン-18の産生に必要なタンパク質複合体の総称。センサータンパク質が微生物由来物質などを認識すると構造変化を起こして不活性型のcaspase-1(pro-caspase-1)などを含んだ複合体を形成する。活性がない状態で発現したインターロイキン-1βやインターロイキン-18は、ここで活性化されたcaspase-1による切断を受けて、活性型に変換される。

 
【論文情報】
論文名:Subtilase cytotoxin from Shiga-toxigenic Escherichia coli impairs the inflammasome and exacerbates enteropathogenic bacterial infection
著者:  Hiroyasu Tsutsuki, Tianli Zhang, Kinnosuke Yahiro, Katsuhiko Ono, Yukio Fujiwara, Sunao Iyoda, Fan-Yan Wei, Kazuaki Monde, Kazuko Seto, Makoto Ohnishi, Hiroyuki Oshiumi, Takaaki Akaike, and Tomohiro Sawa
掲載誌:iScience
doi:https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.104050
URL:https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.104050

 
【詳細】 プレスリリース(PDF444KB)

お問い合わせ

熊本大学大学院生命科学研究部
先端生命医療科学部門
感染・免疫学分野 微生物学講座
担当:助教 津々木 博康
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