がん細胞の集団運動の制御に関わるPacsin 2の機能を解明 抗がん剤の新たな分子標的や診断バイオマーカー候補として期待!

【ポイント】

  •  細胞の集団的な運動は、悪性がんの浸潤や転移の効率化に寄与します。
  • がん細胞の集団運動を制御する新規因子Pacsin 2の機能を解明しました。
  • 新たながん診断マーカーや抗がん剤開発への展開が期待されます。

【概要】

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科のHaymar Wint大学院生、岡山大学学術研究院医歯薬学域の竹田哲也研究准教授および竹居孝二教授、岡山大学病院の渡部昌実教授、岡山大学の那須保友学長、熊本大学大学院先端科学研究部の檜垣匠教授らの研究チームは、がんの浸潤や転移に関わる細胞の集団運動を制御する分子メカニズムを明らかにしました。この研究成果は、5月31日付けのイギリスの科学誌Journal of Cell Scienceに掲載されました。

 悪性度の高いがん細胞は浸潤や転移を起こします。近年の研究で、悪性のがん細胞の多くが集団として運動し、その運動様式が浸潤や転移を効率よく起こす要因になっていることが明らかになってきました。しかし、がん細胞の集団的な運動を制御するメカニズムについてはほとんど明らかになっていませんでした。本研究では、がん細胞の集団運動を制御する新たな因子としてPacsin 2を同定しました。Pacsin 2は、細胞接着分子N-カドへリンの細胞膜への局在を制御し、Pacsin 2の機能を阻害するとがん細胞同士が接着し、集団運動を行うようになることを明らかにしました。本研究の成果を足がかりに、がん細胞の集団運動を制御する分子メカニズムの解明が進めば、より効果的な抗がん剤や、がんの早期診断に用いる新たなバイオマーカーの開発につながることが期待されます。

 

 【今後の研究展開および波及効果】

 近年の研究で、がん細胞の集団運動は、浸潤・転移の効率化だけでなく、抗がん剤に対する耐性獲得にも関わることが知られています。本研究の成果をベースに、がん細胞の集団運動を制御するメカニズムの解明がさらに進めば、がんの早期診断に必要な新たなバイオマーカーの開発や、細胞集団運動をターゲットにした新規抗がん剤の開発へと展開する可能性があります。さらに、細胞集団運動は、個体発生や創傷治癒など、様々な生命現象に必要であることが知られています。そのため、本研究の成果は細胞集団運動が関わる多様な生命現象を司る分子メカニズムの解明にも貢献することが期待されます。

【掲載誌名・DOI】
掲載誌名:Journal of Cell Science
DOI:https://doi.org/10.1242/jcs.260827

【論文タイトル】
Pacsin 2-dependent N-cadherin internalization regulates the migration behaviour of malignant cancer cells

【著者】
Haymar Wint, Jianzhen Li, Tadashi Abe, Hiroshi Yamada, Takumi Higaki, Yasutomo Nasu, Masami Watanabe, Kohji Takei, and Tetsuya Takeda

【主な競争的研究資金】
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号:18K07198、19KK0180、研究代表者:竹田哲也;課題番号:19H03225、研究代表者:竹居孝二;課題番号:19H01064、研究代表者:渡部昌実;課題番号JP22H04926、ABiS先端バイオイメージング支援プラットフォーム)、ウエスコ学術振興財団研究活動費助成(研究代表者:竹田哲也)の支援を受けて実施しました。

【詳細】 プレスリリース(PDF1557KB)

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