女性における尿酸高値の意外な功名―加齢・病態時の肺機能を保護する作用―

【ポイント】

・ 肺病態モデルマウスの血中尿酸値を上昇させると、メスマウスの肺病態が改善することを発見しました。
・ 高齢者のヒト疫学解析から、血中の尿酸値が高い(≥6.0mg/dL)、または、尿酸高値を引き起こすSLC2A9/GLUT9遺伝子多型(T/T型)を持つ場合、女性のみ、肺機能の指標であるFEV1/FVC (%) が高いことを見出しました。
・ 尿酸高値は、痛風や腎障害等の病気を引き起こすものですが、「女性の」肺機能低下に対しては、意外にも保護的に働くことを証明しました。

【概要】

 熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)遺伝子機能応用学研究室の 首藤剛 准教授および薬物治療学研究室の 鬼木健太郎 助教、猿渡淳二 教授らは、日本赤十字社 熊本健康管理センターや学外の大学等研究機関(帝京大学薬学部、東京大学医学部附属病院薬剤部、崇城大学薬学部)との共同研究により、生体内の抗酸化物質の一つである尿酸が、加齢や肺の病気に従って低下しうる女性の肺機能を維持する働きを持つことを発見しました。
 尿酸は、一般に痛風や腎臓病などを引き起こす悪玉物質としての印象が強い一方で、組織に障害をもたらす酸化ストレスを弱める抗酸化物質としても有名で、生体にとって必須の因子でもあります。首藤准教授らは、肺病態モデルマウスの血中の尿酸値を上昇させたところ、メスマウスの肺病態が改善することを発見しました。さらに鬼木助教、猿渡教授らは、高齢者の人間ドック受診データから、血中の尿酸値が高い女性(≥6.0mg/dL)、または、尿酸高値を引き起こすSLC2A9/GLUT9遺伝子多型(T/T型)を持つ女性は、異なる群の女性らと比較して、肺機能が高く維持されることを見出しました。興味深いことに、上記のような尿酸と肺機能の関係(尿酸による肺保護作用)は、オスマウスと男性では認められませんでした。
 尿酸は、肺の組織に多く存在することがかねてより知られていましたが、これまで、肺での働きは不明でした。また、男性と女性では、加齢や病気に伴う肺機能低下の程度も異なることも知られていました。本発見は、尿酸が女性においてのみ加齢や肺の病気に伴って進行する肺機能の低下に対して、意外にも保護的に働くことを証明した初めての発見です。尿酸高値は、痛風や腎障害等の病気を引き起こすことから、決して健康によいものではないですが、尿酸のような抗酸化物質が、加齢や病態が進行した女性において、肺機能を維持するために重要であることを改めて示唆するものです。今後、肺における尿酸や抗酸化物質の働きを改めて見直すことで、男女差に考慮した健康増進や肺疾患治療への応用が期待されます。

 本研究の成果は、酸化ストレスの分野で定評のある国際学術誌「Antioxidants」に令和2年5月6日に公開されました。また、本研究は、文部科学省科研費 (17K15510、17J11629、25460102、17H03570、16K08406)、熊本大学リーディング大学院 HIGOプログラムの支援を受けて行われました。


 
【論文名】
Higher Blood Uric Acid in Female Humans and Mice as a Protective Factor against Pathophysiological Decline of Lung Function

【著者名・所属】

Haruka Fujikawa, Yuki Sakamoto, Natsuki Masuda, Kentaro Oniki, Shunsuke Kamei, Hirofumi Nohara, Ryunosuke Nakashima, Kasumi Maruta, Taisei Kawakami, Yuka Eto, Noriki Takahashi, Toru Takeo, Naomi Nakagata, Hiroshi Watanabe, Koji Otake, Yasuhiro Ogata, Naoko H. Tomioka, Makoto Hosoyamada, Tappei Takada, Keiko Ueno-Shuto, Mary Ann Suico, Hirofumi Kai, Junji Saruwatari*, Tsuyoshi Shuto* (*責任著者)

【掲載雑誌】 Antioxidants

doi】 https://doi.org/10.3390/antiox9050387

【URL】  https://www.mdpi.com/2076-3921/9/5/387

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF 1.17MB)

お問い合わせ  

熊本大学大学院生命科学研究部附属
グローバル天然物科学研究センター
大学院薬学教育部 遺伝子機能応用学研究室
担当:首藤剛 (准教授)
電話: 096-371-4407 
e-mail: tshuto※gpo.kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)