サルモネラが持つ巧妙な生き残り戦術を解明 - 硫黄代謝経路をターゲットとした新たな抗菌薬の開発が可能に -
【ポイント】
- 近年、多剤耐性化したサルモネラの世界的な拡大が深刻な問題となっている。
- サルモネラは哺乳類に存在しない特殊な経路で硫黄代謝物(注1)を産生し、私たちの身体の防御機構の一つであるオートファジー(注2)を抑制していることを世界で初めて発見した。
- 硫黄代謝物の合成経路を創薬ターゲットとした抗菌薬の開発が期待される。
【研究概要】
東北大学大学院医学系研究科 赤池孝章(あかいけ たかあき)教授らのグループは、熊本大学大学院生命科学研究部の澤智裕(さわ ともひろ)教授らとの共同研究により、多剤耐性細菌の世界的拡大が問題となっているサルモネラが、感染時に硫黄代謝物を巧妙に活用することで宿主の生体防御異常を引き起こしていることを、世界で初めて明らかにしました。本研究は、サルモネラが硫黄代謝物を利用して、宿主の防御機構の一つであるオートファジーから逃れていることを解明した画期的な発見です。今回の発見は、硫黄代謝物の合成経路をターゲットとした抗菌薬の開発に繋がることが期待されます。
本研究成果は、2018年9月6日付で、Cell Pressの「Cell Chemical Biology」に掲載されました。
本研究は、文部科学省 新学術領域研究「酸素生物学」および、科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
【論文題目】
(英語)
Title: Reactive Persulfides From Salmonella Typhimurium Downregulate Autophagy-mediated Innate Immunity in Macrophages by Inhibiting Electrophilic Signaling
Authors: Shahzada Khan, Shigemoto Fujii, Tetsuro Matsunaga, Akira Nishimura, Katsuhiko Ono, Tomoaki Ida, Khandaker Ahtesham Ahmed, Tatsuya Okamoto, Hiroyasu Tsutsuki, Tomohiro Sawa, Takaaki Akaike
(日本語)
タイトル: サルモネラ(Salmonella Typhimurium)が産生する活性パースルフィドは親電子シグナルを抑制することで、宿主のオートファジー誘導の抑制をもたらす
著者名: Shahzada Khan、藤井重元、松永哲郎、西村 明、小野勝彦、井田智章、Khandaker Ahtesham Ahmed、岡本竜哉、津々木 博康、澤 智裕、赤池孝章
掲載誌名: Cell Chemical Biology (in press)
【用語説明】
注1. 硫黄代謝物(システインパースルフィド):側鎖にチオール基(-SH基)を持った含硫アミノ酸であるシステインに、さらに過剰な硫黄が結合したもの。
注2. オートファジー(自食作用):細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つ。酵母からヒトに至るまで真核生物に見られる機構である。細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで生体の恒常性維持に関与する。
【詳細】
プレスリリース本文(PDF352KB)
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科環境医学分野
教授 赤池 孝章(あかいけ たかあき)
電話番号: 022-717-8164
Eメール: takaike※med.tohoku.ac.jp
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
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Eメール: pr-office※med.tohoku.ac.jp
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