腎線維化形成にインドキシル硫酸が関わるメカニズムを解明~硫酸転移酵素の役割解明と治療標的の可能性~

【ポイント】

  • 肝臓に発現する硫酸転移酵素SULT1A1の欠損マウスを用い、尿毒症物質インドキシル硫酸が尿管結紮後の腎線維化形成に深く関わっていることを突き止めました。
  • インドキシル硫酸による腎線維化形成の機序として、Wnt/β-カテニンシグナルの亢進、線維化抑制的に働くマクロファージの腎組織中への浸潤抑制、並びにエリスロポエチン産生活性の低下に基づくことを明らかにしました。
  • 腎障害に伴う線維化形成・進展におけるインドキシル硫酸の毒性・病理学的役割の一端が解明されたことにより、SULT1A1を選択的に阻害する薬物の開発によって、腎線維化の予防・低減による腎臓病の進展抑制効果が期待されます。

【概要説明】

 熊本大学大学院薬学教育部・博士後期課程3年の侯 慧嫻大学院生、熊本大学病院薬剤部の成田勇樹助教、齋藤秀之教授・薬剤部長らの研究グループは、尿毒症物質の一つであるインドキシル硫酸*1の産生責任酵素である硫酸転移酵素SULT1A1*2の遺伝子欠損マウスを用いて、尿管(にょうかん)結紮(けっさつ)による急性腎障害後の腎組織線維化が有意に抑制されることを突き止めました。
 インドキシル硫酸は、代表的な硫酸抱合型尿毒症物質であり、タンパク質摂取後に腸内細菌の代謝によって産生されるインドールが吸収され、肝臓で酸化的代謝を受けた後にSULT1A1によって産生されます。腎機能が正常であれば、インドキシル硫酸は速やかに尿中へ排泄されますが、腎機能に障害が起こるとインドキシル硫酸の排泄が滞り、血液や腎臓、肺、筋肉などの様々な組織に蓄積し毒性を発現します。
 腎組織に蓄積したインドキシル硫酸は、尿細管細胞内のシグナル伝達の亢進、線維化抑制作用を持つマクロファージの浸潤抑制や造血因子であるエリスロポエチン産生能の低下などの複雑な機序を介して線維化を亢進することが、SULT1A1欠損マウスを用いた研究で明らかとなりました。
 現在、インドキシル硫酸の影響を抑える医薬品として、インドキシル硫酸の前駆物質を除去する経口吸着活性炭AST-120のみが臨床使用されており、インドキシル硫酸の産生そのものを抑える医薬品はありません。SULT1A1を選択的に阻害する医薬品が開発されることにより、腎臓の線維化に起因する腎硬化症や慢性腎臓病の進展を抑える新たな薬物治療法が開拓されることが期待されます。
 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(研究課題:22H02785、20K16047)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬支援推進事業(研究課題:JP19nk0101328h0005)の支援を受けて実施した研究であり、「International Journal of Molecular Sciences」に日本時間7月12日に公開されました。


【展開】

 今回、世界で初めてSULT1A1欠損マウスを用いた研究により、SULT1A1がインドキシル硫酸の体内産生を中心的に担う酵素であること、SULT1A1活性を抑制することによってインドキシル硫酸の産生が抑えられ、腎障害後の線維化形成を防げる可能性が示唆されました。現在、国内外においてインドキシル硫酸の産生阻害薬は未だ開発されていません。今後、選択的なSULT1A1阻害薬が見出されることにより、腎硬化症や慢性腎臓病の進展を抑える新規治療法が開発されることが期待されます。


【用語解説】
※1インドキシル硫酸
代表的な尿毒症物質であり、食物中タンパク質の消化管内分解で生じるトリプトファンが腸内細菌によってインドールに代謝変換した後、肝臓の薬物代謝酵素により酸化され、硫酸転移酵素SULT1A1により硫酸基が抱合されて産生される。全身の臓器に蓄積し酸化ストレスなどを発生することにより、臓器障害や腎障害に伴う尿毒症状の原因物質のひとつと考えられている。

※2硫酸転移酵素SULT1A1
肝臓に高発現し薬物や毒物などに硫酸基を転移する酵素であり、脂溶性の高い薬物などが硫酸抱合されることによって水溶性が高まり、体外へ排泄しやすくする機能を有する。肝臓には数種類の硫酸転移酵素が機能しており、SULT1A1は肝臓で発生したインドキシルを特異的に硫酸抱合することが知られている。


【論文情報】

  • 論文名:Suppression of Indoxyl Sulfate Accumulation Reduces Renal Fibrosis in Sulfotransferase 1a1-Deficient Mice
  • 著者:Huixian Hou, Mai Horikawa, Yuki Narita, Hirofumi Jono, Yutaka Kakizoe, Yuichiro Izumi, Takashige Kuwabara, Masashi Mukoyama and Hideyuki Saito
  • 掲載誌:International Journal of Molecular Sciences
  • doi:10.3390/ijms241411329
  • URL:https://www.mdpi.com/1422-0067/24/14/11329

【詳細】 プレスリリース(PDF242KB)

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