心不全病態の進行を抑制する新規RNAを同定ー新たな治療法の開発に期待ー

【ポイント】

  • 心筋細胞に豊富に発現する新規長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA1Caren」を同定し、心不全の原因となる加齢や高血圧などの圧負荷によるストレスによって心筋細胞におけるCarenRNA量が減少することを解明しました。
  • Carenは、ミトコンドリア数増加により心筋細胞のエネルギー代謝増強作用、およびDNA損傷応答 2活性化の抑制作用を示し、心不全病態の進行に拮抗することを解明しました。
  • 心筋細胞におけるCarenRNA量を補充し増加させることで心不全病態の進行を抑制できたことから、心筋細胞へのCaren作用経路の活性化が、心不全に対する新規治療法の開発に向けた戦略の一つとして期待されます。

【概要説明】

 心不全は未だ予後不良の病気であり、超高齢社会の到来により心不全患者数は今後もさらなる増加が予測されます。心不全をはじめとする加齢関連疾患は、健康寿命延伸の大きな阻害要因になることから、効果的な新規治療法の開発が望まれています。

 今回、熊本大学大学院生命科学研究部の尾池雄一教授らの研究グループは、心筋細胞に豊富に発現する新規lncRNAである「Caren」を同定し、Carenが心筋細胞におけるミトコンドリア数増加によりエネルギー産生を増強すること、また、DNA損傷応答経路の活性化の鍵となるATMタンパク質の活性化を抑制し、心不全病態の増悪を抑制する作用を有することを明らかにしました。

 心筋細胞におけるCarenRNA量は、心不全の発症につながる加齢や高血圧などの圧負荷によるストレスによって低下することに加え、ヒト心不全患者の心臓組織においても顕著に減少していることを発見しました。一方、マウス心不全モデルにおいて、心筋細胞のCaren RNA量を増加させることで、心不全病態の進行を抑制することに成功したことから、今後、心筋細胞におけるCaren 作用活性化が、心不全に対する新規治療法の開発につながることが期待されます。

 本研究成果は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)『老化メカニズムの解明・制御プロジェクト』(研究開発分担者:尾池 雄一)ならびに革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出」研究開発領域における研究開発課題「組織修復に基づく恒常性維持機構の変容による生活習慣病の病態解明と制御」(研究開発代表者:尾池 雄一)、文部科学省科学研究費補助金(18H0280918K19519(研究代表者:尾池 雄一)、19K17607(研究代表者:佐藤 迪夫)、2546111419K08560(研究代表者:宮田 敬士)、23310135(研究代表者:荒木 喜美))の支援を受けたもので、令和355日午前10時(日本時間午後7時)に、Nature Communicationsオンライン版に掲載されました。

 

【展開】

 今回の研究成果により、心筋細胞内のCaren RNA量を増加させることが、心不全の発症・増悪の抑制につながることから、心不全に対する新規治療法開発の戦略として期待されます。マウスを用いた実験では、アデノ随伴ウイルスを用いたCaren RNAの補充療法が心不全病態の増悪抑制に有効であったことから、今後、ヒトCarenについても同様の効果が認められるかどうかを検証することが、心不全の新規治療法開発に向けて重要であると考えられます。

【用語解説】

1)長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA

ノンコーディングRNAは、タンパク質をコードしていないRNAであり、その長さが200塩基以上のノンコーディングRNAを長鎖ノンコーディングRNAと呼びます。近年の研究により、長鎖ノンコーディングRNAは、細胞内で様々な役割を果たしていることが知られてきており、がんや心不全などの疾患における機能も報告され、大変注目されています。

2)DNA損傷応答

細胞内では、DNAに損傷が生じると、細胞分裂を停止させ、損傷したDNAの修復を行う機構が作動します。また、DNAの損傷が修復不能な場合には、細胞死を誘導するような機構も存在しており、このようなDNA損傷に対する細胞の応答をDNA損傷応答と呼びます。細胞分裂を行わない心筋細胞では、DNA損傷応答の活性化によってミトコンドリアの機能が損なわれたり、細胞死が誘導されたりすると考えられています。また、逆にミトコンドリアの機能低下によって生じる活性酸素種がDNA損傷を増加させることも明らかになっています。


【論文情報】

  • 論文名:The lncRNA Caren antagonizes heart failure by inactivating DNA damage response and activating mitochondrial biogenesis
  • 著者:Michio Sato, Tsuyoshi Kadomatsu, Keishi Miyata, Junco S. Warren, Zhe Tian, Shunshun Zhu, Haruki Horiguchi, Aman Makaju, Anna Bakhtina, Jun Morinaga, Taichi Sugizaki, Kaname Hirashima, Kumiko Yoshinobu, Mai Imasaka, Masatake Araki, Yoshihiro Komohara, Tomohiko Wakayama, Shinichi Nakagawa, Sarah Franklin, Koichi Node, Kimi Araki, & Yuichi Oike* (co-first authors, *corresponding author)
  • 掲載誌:Nature Communications
  • URL:https://www.nature.com/articles/s41467-021-22735-7
  • DOI:10.1038/s41467-021-22735-7


【詳細】
  プレスリリース本文(PDF896KB)

お問い合わせ

熊本大学大学院生命科学研究部
分子遺伝学講座
担当:教授 尾池 雄一
電話:096-373-5142
e-mail:oike※gpo.kumamoto-u.ac.jp

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