iPS細胞における内在性レトロウイルスのゲノム転移を発見

【ポイント】

  • 内在性レトロウイルス*1HERV-Kが、転写因子SOX2*2により活性化することを発見した。
  • iPS細胞では、SOX2により活性化したHERV-Kが自身のゲノムを転移させる可能性を見出した。

【概要説明】

 熊本大学大学院生命科学研究部微生物学講座の門出和精助教、澤智裕教授、前田洋助准教授、同分子生理学講座の富澤一仁教授、同医用画像科学講座の内山良一准教授、同大学ヒトレトロウイルス学共同研究センターの佐藤賢文教授、同大学発生医学研究所の江良択実教授らは、国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授、ミシガン大学医学部の小野陽教授と共同で、ヒトゲノム中に化石化して存在している古代レトロウイルスである内在性レトロウイルスHERV-Kが転写因子SOX2により活性化され、自身のゲノムを転移させることを世界で初めて報告しました。ヒトのゲノムの約1割が内在性レトロウイルス(HERV)をコードしていますが、その一種であるHERV-KはHERVの中では最も新しいウイルスということで知られています。今まで、このHERV-Kの活性化機構、ゲノム機構についてはわかっていませんでしたが、今回、本研究グループは、SOX2HERV-Kの活性化に必須であることを初めて発見しました。また、SOX2iPS細胞での多能性維持にも必須因子であることから、iPS細胞でHERV-Kが発現すること、さらにHERV-KiPS細胞内で自身のゲノムを転移させる可能性があることを今回報告しました。HERVは、がんや神経疾患などの病態にも関与することでも注目されており、本研究成果によりHERVと病態の因果関係が明らかになっていくことが期待されます。

 本研究成果は、科学雑誌「Journal of Virology」に令和4414日に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費助成事業、公益財団法人武田科学振興財団の支援を受けて実施したものです。

【用語解説】

*1 内在性レトロウイルス:レトロウイルスは、プラス鎖RNAをゲノムとしてもつウイルスで、代表的なウイルスにHIVHTLVなどがある。内在性レトロウイルスは、ヒトゲノムに組み込まれているが、ウイルス遺伝子に長い年月をかけて欠損や変異が蓄積することで本来の機能が消失したと考えられている古代のレトロウイルス。

*2 SOX2:山中伸弥教授により発見された、iPS細胞の樹立に必須な転写因子。

 
【論文情報】
論文名:Movements of ancient human endogenous retroviruses detected in SOX2-expressing cells
著者:  Kazuaki Monde, Yorifumi Satou, Mizuki Goto, Yoshikazu Uchiyama, Jumpei Ito, Taku Kaitsuka, Hiromi Terasawa, Nami Monde, Shinya Yamaga, Tomoya Matsusako, Fan-Yan Wei, Ituro Inoue, Kazuhito Tomizawa, Akira Ono, Takumi Era, Tomohiro Sawa, Yosuke Maeda
掲載誌:Journal of Virology
doi:10.1128/jvi.00356-22
URL:https://journals.asm.org/doi/10.1128/jvi.00356-22

 
【詳細】 プレスリリース(PDF391KB)

お問い合わせ

熊本大学大学院生命科学研究部
先端生命医療科学部門
感染・免疫学分野 微生物学講座
担当:助教 門出和精
電話:096-373-5129
E-mail:monde※kumamoto-u.ac.jp

(※を@に置き換えてください)