電気と温熱の組み合わせが腎病態を改善するーネフローゼ症候群に対する温故知新なアプローチー

【ポイント】

  • 最適化した物理刺激 (低周波微弱パルス電流と温熱の併用処置(MES+HS)) が、ネフローゼ症候群(NS)の腎病態を改善することを発見しました。
  • 本物理刺激 (MES+HS) は、腎臓の尿濾過機能を担う糸球体の足細胞 (ポドサイト) の減少や硬化病変を改善するとともに、炎症や線維化をも抑制することが示されました。
  • 本物理刺激 (MES+HS) は、他の臨床試験から、ヒトに対して安全性の高い医療機器となりうることが明らかとなっており、今後、NSに関わる複数因子を同時に標的化する刺激として、臨床応用することが期待されます。

【概要説明】

 熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)遺伝子機能応用学研究室の 寺本啓祐 大学院生、甲斐広文 教授らは、生物活性を指標に最適化した微弱パルス電流(MES)と温熱(HS)の併用処置(MES+HS)が、腎臓において抗炎症作用や抗線維化作用を発揮するとともに、腎臓細胞のアポトーシス(細胞死)を抑制することでネフローゼ症候群(NS)に対し保護的に働くことを発見しました。

 MES+HSは、細胞内シグナルを制御することで多様な疾患に対し有効性を示すことが基礎研究で明らかになっています。特に、2型糖尿病に関しては、ヒト患者を対象とした臨床研究においても、副作用なく病態改善効果を発揮することが知られていました。今回の発見では、MES+HSが細胞の生存に関わるAkt-Bad経路を制御し、NSの原因となる糸球体障害を抑制することを見出しました。また、MES+HSが腎臓の炎症や線維化も同時に抑制し、NSの発症から進行に関わる複数の因子を標的にすることが示されました。既存薬と作用様式が異なることから、MES+HSがNSにおける新たな治療手段となることが期待されます。また、他の臨床試験から、ヒトに対して安全性の高い医療機器となりうることが明らかとなっており、今後、NSに関わる複数因子を同時に標的化する刺激として、臨床応用することが期待されます。本研究の成果は、Nature Pressの「Scientific Reports」に令和2年10月30日19時(日本時間)に公開されました。

 本研究は、文部科学省科研費 (JP26460098、JP17K08309)、熊本大学リーディング大学院 HIGOプログラムの支援を受けて行われました。

【展開】

 本物理刺激 (MES+HS) は、他の臨床試験から、ヒトに対して安全性の高い医療機器となりうることが明らかとなっています。本研究の成果により、今後、NSに関わる複数因子を同時に標的化する刺激として、臨床応用することが期待されます。 

【論文情報】

論文名:Mild electrical stimulation with heat shock attenuates renal pathology in adriamycin-induced nephrotic syndrome mouse model
著者:Keisuke Teramoto, Yu Tsurekawa, Mary Ann Suico, Shota Kaseda, Kohei Omachi, Tsubasa Yokota, Misato Kamura, Mariam Piruzyan, Tatsuya Kondo, Tsuyoshi Shuto, Eiichi Araki, Hirofumi Kai*(*責任著者)
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-020-75761-8

URL:https://www.nature.com/articles/s41598-020-75761-8

【詳細】

プレスリリース(PDF906KB)

お問い合わせ
熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター
大学院薬学教育部 遺伝子機能応用学研究室
担当:甲斐 広文(教授)
電話:096-371-4405
e-mail: hirokai※gpo.kumamoto-u.ac.jp
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