ギリシア古代劇場には移動式の木造舞台が存在したことが明らかに

熊本大学大学院先導機構(地中海建築研究室)の吉武隆一准教授は、ヘレニズム期(紀元前323年-紀元前30年頃)に建造されたギリシアの古代都市メッセネの劇場に、移動式の木造舞台が存在した可能性が高いことを明らかにしました。本研究の成果は、ドイツ考古学研究所が発行する国際学術雑誌Archäologische Anzeigerの2016/2号(平成29年5月発行)に掲載されました。
https://www.dainst.org/-/archaologischer-anzeiger

現代の劇場建築の祖型は、古代ギリシア・ローマの劇場にまで遡ります。古代ギリシア時代の劇場(紀元前550年-紀元前220年頃)は、円形のオルケストラ、舞台、すり鉢状の客席で構成される素朴で開放的なものでしたが、後のローマ時代(紀元前31年-)には、舞台が高くなり大理石の列柱で装飾され、さらに客席と一体化して壮麗で閉鎖的な劇場に変化しました。この劇場建物の発展には、ヘレニズム末期における舞台建物の変化が関係していると考えられていましたが、その詳細はこれまで不明でした。
こうした中、2007年までに発掘されたギリシア古代都市メッセネの劇場において、舞台脇から大きな舞台収納室と三本の石列が新たに見つかり、熊本大学地中海建築研究室のグループが現地調査を行ってきました。同様の遺構は、他にもメガロポリス、スパルタの二例がギリシア国内の近接する位置に存在することが知られていますが、収納室と石列の具体的な機能については研究者の間でも見解が割れていました。本研究では、一世紀におよぶ研究史を踏まえつつ、関連する三つの遺構を相互に比較分析し、メガロポリスの劇場では木製の背景画パネルが、スパルタとメッセネの劇場では車輪付き木造舞台が、それぞれ存在した可能性が高いことを明らかにしました。これによって、今後ギリシア時代からローマ時代にかけての劇場建物の発展過程が明らかになることが期待されます。

熊本大学地中海建築研究室では、半世紀以上に亘り古代ギリシア・ローマ建築の調査研究を行っています。今回論文が掲載されたArchäologische Anzeiger誌は、この分野の世界的権威であるドイツ考古学研究所ベルリン本部が1889年から発行する専門誌で、日本人研究者の論文が掲載されるのは1981年以来二人目の快挙です。
本研究は、文部科学省・科学研究費補助金、前田記念工学振興財団研究助成等の支援により実施されたものです。

【タイトル】The Movable Stage in Hellenistic Greek Theatres. New Documentation form Messene and Comparisons with Sparta and Megalopolis
【著者名】R. Yoshitake
【ISBN】978 3 8030 2357 5
【掲載誌】 Archäologische Anzeiger ,2016/2(冊子版のみ:平成29年5月発行)

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF 3.8MB)

お問い合わせ
熊本大学大学院先導機構
(併任)熊本大学工学部建築学科
地中海建築研究室
担当:吉武 隆一 准教授
電話:096-342-3931
E-mail:yoshitak※kumamoto-u.ac.jp(迷惑メール対策のため@を※に置き換えております)