熊本大学と海洋研究開発機構が連携協定を締結しました

1.概要
国立大学法人熊本大学・薬学部(学長 原田 信志、薬学部長 甲斐 広文、以下「熊本大学」という)と国立研究開発法人海洋研究開発機構・海洋生命理工学研究開発センター(理事長 平 朝彦、研究開発センター長 出口 茂、以下「JAMSTEC」という)は、平成30年1月9日付で深海微生物が生産する創薬シーズなどの生理活性物質の探索研究を推進することを目的とした連携協定を締結致しました。今後両者は共同で(1)学術、科学技術及び医療技術の知見に関する交流と活用、(2)深海生物・深海微生物を活用した医薬品などの開発、(3)深海生物・深海微生物の産業利用、(4)学生の教育、(5)研究者の交流に取り組みます。

2.締結部署について
熊本大学薬学部は、宝暦6年(1756 年)に開設された細川藩の薬園「蕃滋園」を源流とする国内で最も歴史ある薬学教育・研究機関のひとつです(図1)。これまでに咳止め薬アスベリンの開発、医薬品の可溶化・安定化におけるシクロデキストリンを用いた製剤技術の開発など創薬における重要な貢献のみならず、人工甘味料チクロの体内分解の発見をはじめとする化学物質の安全性に関する研究でも優れた業績を上げて来ました。さらに熊本大学においては、今年度から文部科学省地域イノベーション・エコシステム形成プログラム支援対象地域に採択され、有用植物及び海洋微生物に由来する天然化合物を活用した創薬産業のイノベーション創出に向けた取り組みを進めています。
JAMSTEC 海洋生命理工学研究開発センターでは、生物が深海の過酷な環境に適応する過程で獲得した独自の生存戦略を解明することで新たな「知」を創造するとともに、産業界や大学、各種研究機関と密に連携し、これらの「知」に基づくイノベーションの創出を目指した研究開発を行っています。その一環として平成26年度より試験的に行って来た事業の成果をもとに昨年9月に「深海バイオ・オープンイノベーションプラットフォーム」(プラットフォーム長 布浦 拓郎)を設立し、オープンイノベーション体制による深海微生物資源の開発を進めています。

3.連携協定書の狙い
目に見えない小さな微生物は新たな医薬品開発の源として大きなポテンシャルを秘めています。例えば川奈のゴルフ場近くの土壌から分離された微生物が作り出す物質をもとに開発された医薬品「イベルメクチン」は、毎年約2億人余りの人々に投与されて中南米・アフリカの風土病撲滅に大きく貢献しており、発見者の大村 智 北里大学特別栄誉教授には2016年のノーベル医学・生理学賞が授与されました。しかしながら深海に生息する微生物が作り出す生理活性物質に関する科学的知見は、世界的に見ても非常に乏しいのが現状です。このため、JAMSTEC 海洋生命理工学研究開発センターでは、深海バイオ・オープンイノベーションプラットフォームの事業として、有人潜水調査船「しんかい6500(図2)」などを用いて深海から採取した堆積物(図3)や5,000株以上の深海微生物の分離株、深海環境ゲノム情報などの貴重な深海バイオリソース(図4)を大学などの研究機関や民間企業に提供し、創薬などの産業ポテンシャルを広く探索する取り組みを進めています。
今回の連携によって、熊本大学薬学部が保有する生理活性物質・創薬リード化合物の探索技術基盤と、JAMSTEC 海洋生命理工学研究開発センターが保有する深海微生物に関する知識基盤のシナジーにより、未だ人の手がほとんど及んでいない深海に生息する微生物が持つ創薬ポテンシャルが明らかになることが期待されます。また将来的には研究成果を基にした医薬品の開発など、深海微生物の新たな産業利用に向けた取り組みも行う予定です。

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図1 熊本大学薬学部
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図2 有人潜水調査船
「しんかい6500」

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図3 深海底での堆積物採取の様子
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図4 貴重な深海バイオリソース
が保管された液体タンク