ジェットインジェクション技術で腫瘍内の薬の"漏れ"を低減 ―腫瘍に残る薬の量が治療効果を左右することを解明―

(ポイント)

  • 本学と株式会社ダイセル(本社:大阪市北区、代表取締役社長:榊 康裕)の研究グループは、ジェットインジェクション技術を用いた腫瘍内薬物送達に関する研究成果を国際科学誌 Pharmacological Research (2026年9月1日掲載)で発表しました。
  • 本研究成果は、腫瘍内投与の効果を名目上の投与量だけでなく、薬液漏出と局所保持という物理現象から捉える重要性を示しました。また、腫瘍の物理特性と投与方法を組み合わせて考えることで、局所薬物送達をより合理的に設計できる可能性を提示しました。
  • 今後、腫瘍の硬さなどの物理特性に応じて投与条件を最適化することで、より精密で効果的な腫瘍内薬物送達法の確立につながることが期待されます。

( 概要説明)

〇本研究は、本学産業ナノマテリアル研究所ワンタイムエナジー共同研究講座の寺居和宏特任教授、ヒトレトロウイルス学共同研究センター造血・腫瘍制御学分野の岡田誠治教授らの研究グループによって行われたものです。

〇本研究では、腫瘍内投与の課題である薬液漏出に注目して、ガイド付きジェットインジェクション(注入)が従来の針注射に比べて薬液漏出を低減し、より強い腫瘍増殖抑制効果を示すこと、従来の針注射とは異なる組織内構造変化が生じることを確認しました。

 ・腫瘍内注射後の「薬液漏出』を定量化し、漏出補正後の推定局所保持量の違いが治療効果の違いと関連することを示しました。

・複数の腫瘍モデルで組織の硬さに顕著な差が認められ、腫瘍の力学的不均一性が薬液漏出や局所保持の違いに関与する可能性が示されました。

・ガイド付きジェット注入では、一過性の組織内間隙が形成され、従来の針注射とは異なる三次元的なキャビティー(=組織内にできる空洞)形成パターンが観察されました。

・薬剤の性質だけでなく、腫瘍の物理特性と投与方法の組合せを考慮して局所薬物送達を設計する、新たな最適化概念を提示しました。


(研究成果と今後の期待)

1.「投与した量」ではなく「腫瘍内に残った量」が重要:

複数の腫瘍モデルを用いて従来の針注射による腫瘍内投与を調べたところ、薬液が腫瘍表面から外へ漏出する現象が認められました。漏出量を考慮して推定した局所保持量は、腫瘍モデルや投与方法によって異なり、こうした違いは治療効果の違いとも対応していました。腫瘍内投与を評価する際には、名目上の投与量だけでなく、薬液漏出と局所保持を考慮する必要があります。

2.腫瘍の力学的不均一性と局所保持性が関連:

腫瘍組織の物理特性を測定した結果、腫瘍モデル間で組織の硬さに顕著な違いが認められました。この違いは、注入時の組織変形、液体の伝播、漏出、最終的な局所保持の違いに関与する可能性があります。本研究は「硬い腫瘍ほど必ず漏れる」といった単純な因果関係を示すものではなく、腫瘍の力学的不均一性と局所保持性が関連することを示したものです。

3.ガイド付きジェット注入は異なる組織内伝播経路を形成:

組織学的解析では、ガイド付きジェット注入後の腫瘍組織に、組織間隙を伴う一過性の構造変化が観察されました。さらに三次元画像解析により、従来の針注射とは異なるキャビティー形成パターンが確認されました。これらの所見は、注入時の力学的作用を設計することで、腫瘍内の局所的な液体伝播を促進・制御できる可能性を示します。

◎本研究成果は令和8年9月1日に科学雑誌「Pharmacological Research」に掲載されました。論文はオープンアクセスで閲覧できます(Drug leakage limits intratumoral drug exposure and efficacy: Influence of tumor mechanical heterogeneity - ScienceDirect)。

〇詳細については、添付PDF内『別紙』よりご覧ください。


(用語解説)

腫瘍内投与:薬剤を腫瘍組織へ直接注入する投与法。局所の薬物曝露を高め、全身への曝露を抑えることが期待されます。

薬液漏出:腫瘍内へ注入した薬液の一部が、腫瘍表面や針刺入部などを介して腫瘍外へ流出する現象。本研究では、局所保持量と治療効果を制限する物理的要因として評価しました。

ガイド付きジェット注入:高速の液体ジェットによる注入をガイド機構と組み合わせ、標的組織へ薬液を送達する方法。本研究では株式会社ダイセルが開発するジェットインジェクション技術を用いました。

ガイド:局所(腫瘍内)でジェットインジェクションを達成するために、ノズルの延長を目的に装着した治具です。本検討では、ガイドとして30G注射針を用いました。

腫瘍の力学的不均一性:腫瘍内または腫瘍間で、硬さ、弾性、組織構築などの物理的性質が異なることを指します。


(論文情報)

論文名:

Drug Leakage Limits Intratumoral Drug Exposure and Efficacy: Influence of Tumor Mechanical Heterogeneity

著者:

Kazuhiro Terai, Ryusho Kariya, Hiromi Ogata-Aoki, Mariko Ogura, Hiromitsu Iga, Satoshi Sakamoto, Seiji Sakano, Seiji Okada

掲載誌:Pharmacological Research 232:108414, 2026                  
DOI
:10.1016/j.phrs.2026.108414
URL: https://doi.org/10.1016/j.phrs.2026.108414

 

【詳細】 プレスリリース(PDF2,080KB)

※各図、別紙等は上記PDFよりご覧ください。

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