ダウン症の遺伝子は生活習慣病(脂肪性肝炎)を防護する

【ポイント】

  • ダウン症因子DSCR-1の遺伝子を欠損させたマウスは脂肪性肝炎になり、高コレステロール血症モデルマウスであるApoE欠損マウスと掛け合わせると、高コレステロール血症がさらに増悪し、加齢による脂肪腫も偶発的に形成された。
  • DSCR-1は慢性肝炎の肝細胞で防護的にはたらくが、欠損させると酸化ストレスや小胞体ストレスが増大し、コレステロール産生の鍵となる SREBP2※2がさらに活性化した。
  • DSCR-1は病態組織で発現し、がん悪性化や敗血症ショックを防ぐだけでなく、慢性炎症にも関与することが明らかになった。ダウン症因子を解析することにより、動脈硬化や高血圧にならないヒントが得られると思われる。

【概要説明】

 熊本大学 生命資源研究・支援センターの南敬教授らは、マウスを用いた病態解析から、ダウン症因子DSCR-1は慢性肝炎の肝細胞で発現し、防護的にはたらくこと、一方で、DSCR-1が欠損した状態では、通常食でも脂肪性肝炎になることを明らかにしました。また、DSCR-1欠損マウスをApoE欠損マウスや LDL受容体発現抑制マウスと掛け合わせるとさらに高コレステロール血症が増悪する仕組みについて明らかにしました。

 これまで成人期ダウン症では、早期老化に伴い神経病態が悪化するだけではなく、逆に血管では加齢に対し抵抗性を有することが疫学研究から想定されていましたが、その詳細な候補遺伝子や機構について知られていませんでした。今後、DSCR-1がダウン症因子の範疇を超えて、幅広い生活習慣病(動脈硬化や高血圧)の治療関連因子としてクローズアップされることが期待されます。

 本研究成果は米国生化学会誌 Journal of Biological Chemistry にて令和3年4月22日にオンラインで先行掲載されました。また、本研究は文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて実施したものです。

【展開】

 これまで報告されているダウン症因子DSCR-1の防護的効果として、がん増殖抑制 (Nature 2009)、敗血症でのサイトカインストームの抑制 (J.Clin.Invest. 2009)、高コレステロール環境下での角膜混濁 (ATVB 2020) が挙げられていましたが、今回新たに生活習慣病に直結する脂肪性肝炎と高コレステロール血症への関与が明らかとなりました。

 DSCR-1過剰発現自体は動脈硬化形成を防護しますが、DSCR-1の発現がないと、逆に動脈硬化プラークとしては進展しないものの、全身性での高コレステロール血症が増悪する結果を生み出します。これらの病態は、ダウン症発症の主因となる転写因子 NFAT4やSREBP2の各臓器における異常活性化が引き金となっていることもあるため、いかにしてDSCR-1の発現を制御し、発生期でのダウン症病態(神経障害や白血病)を防ぎつつ、加齢病態や生活習慣病への抵抗性(好まれる要素)を高めるかが日本を含め先進国での高齢化社会対策として重要となります。


【用語解説】

※1 DSCR-1:ダウン症の要因となるヒト21番染色体に位置する因子で、NFAT転写因子の抑制機能や抗酸化機能を基に生後の恒常性を守っている。

※2 SREBP2:内在性コレステロール合成に働く酵素や LDL 受容体発現を制御する、肝臓での重要な転写因子。通常、コレステロール量を調節している。


【論文情報】

  • 論文名:Loss of Down syndrome critical region-1 leads to cholesterol metabolic dysfunction that exaggerates hypercholesterolemia in ApoE-null background
  • 著者:Masashi Muramatsu, Tsuyoshi Osawa, Yuri Miyamura, 1 Suguru Nakagawa,3 Toshiya Tanaka, 4 Tatsuhiko Kodama, 4 Hiroyuki Aburatani, 3 Juro Sakai, 5, 6 Sandra Ryeom,7 and Takashi Minami,1*

1 Div. Molecular and Vascular Biology, IRDA, Kumamoto University, 860-0811 Japan; 2 Div. Integrative Nutriomics, 3 Genome Science, 4 Systems Biology, and 5 Metabolic Medicine, RCAST, the University of Tokyo, 153-8904 Japan; 6 Div. of Molecular Physiology and Metabolism, Graduate School of Medicine, Tohoku University, 980-8575 Japan; and 7 Dept. Cancer Biology, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, 19104, USA : contributed equally


【詳細】 プレスリリース(PDF597KB)

お問い合わせ  

熊本大学生命資源研究・支援センター
担当:教授 南 敬
電話:096-373-6500
E-mail:t-minami※kumamoto-u.ac.jp

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