免疫チェックポイント阻害薬(がん免疫療法)を受ける肺がん患者における、プロバイオティクス製剤の有用性に関わる免疫学的機序を解明 ― γδT細胞の活性化が治療成績と関連

(ポイント)

  • プロバイオティクス製剤によって誘導されるγδT細胞サブセットを同定した。
  • プロバイオティクス誘導型γδT細胞は、既知のリガンドである細胞表面のタンパク質複合体を介して腫瘍細胞を認識し、殺傷することが明らかになった。
  • 免疫療法にプロバイオティクス製剤が併用された肺がん患者において、活性化したγδT細胞が有意に検出された。
  • がん免疫療法を受けた肺がん患者において、活性化したγδT細胞が治療成績の改善と関連することが明らかになった。

(概要説明)

ヒトレトロウイルス学共同研究センター注1熊本大学キャンパスの本園千尋 准教授、後藤由比古 大学院生(当時)(現:熊本大学大学院生命科学研究部 呼吸器内科学講座 医員)、上野貴将 教授、熊本大学大学院生命科学研究部呼吸器内科学講座の冨田雄介 診療准教授、田嶋祐香 大学院生、今村光佑 医師、坂田晋也 特任助教、坂上拓郎 教授らの研究グループは、プロバイオティクス製剤によって抗腫瘍活性を持つγδT細胞2が誘導されることを明らかにしました。さらには進行肺がん患者において免疫療法にプロバイオティクス製剤が併用されることにより、活性化したγδT細胞が肺がん患者末梢血で有意に増加し、活性化したγδT細胞が多い肺がん患者さんでは生存期間が良好であることを発見しました。

本研究成果は令和8年3月24日午前6時(日本時間3月24日午後2時)に、国際学術誌「Frontiers in Immunology」オンライン版で公開されました。本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「エイズ対策実用化研究事業・課題名:HIV感染細胞の異常を感知する新たなヒト自然免疫型T細胞の同定」、「新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)・課題名:抗ウイルス機能に優れたT細胞を誘導する人工T細胞抗原の開発」、「医学系研究支援プロブラム・課題名:広島・神戸・熊本 医療革新・研究共同推進イニシアティブ(HK²-MIRAI)」、熊本大学病院研究活性化プロジェクト、武田科学振興財団「医学系研究助成」、日本学術振興会科学研究費助成事業「基盤研究(B)ならびに(C)」、「国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))」、新日本先進医療研究財団「研究助成金」からの支援を受けて、さらに、カーディフ大学(英国)との国際共同研究として行われました。

 

(説明)

[背景]

免疫チェックポイント阻害薬 (Immune Checkpoint Inhibitor; ICI)投与 は、免疫系の抑制化シグナルを制御し、がん患者自身の抗腫瘍免疫を増強することで抗腫瘍効果を発揮する画期的な治療法です。しかし、ICIはすべての患者さんで効果が得られるわけではなく、化学療法とICIの併用療法を行っても十分な効果が得られる患者さんは限られています。そのため、進行肺がんの予後は依然として厳しく、ICIの治療効果を高める新たな治療戦略の開発が重要な課題となっています。

近年、腸内細菌叢がICIの治療効果に影響する可能性が注目されています。抗菌薬や胃酸分泌を抑える薬剤など、腸内細菌叢のバランスを変化させる薬剤の使用がICIの効果低下と関連することが報告される一方で、糞便移植などにより腸内細菌叢を改善させることによりICIの効果が高まる可能性も示唆されています。熊本大学病院 呼吸器内科の冨田雄介 診療准教授らはプロバイオティクス製剤の投与歴とICIの効果に関連性があることを見出し、プロバイオティクス製剤の投与歴がある肺がん患者さんでは、ICI治療により有意な生存期間の延長が得られていることを報告しました1)。また、この知見を応用した腎がんにおける臨床試験においても同様に、患者さんの予後改善が報告されています2-3)。しかしながら、ICIにプロバイオティクス製剤が併用された肺がん患者さんにおける予後の改善に関わる免疫学的な分子機序については不明でした。

[研究の内容]

本研究では、日本人ならびに英国人の健常人由来の末梢血単核球を用いて、プロバイオティクス製剤(CBM588:Clostridium butyricum MIYAIRI 588)成分によって誘導される免疫細胞の解析を行いました。次に、CBM588によって誘導された免疫細胞について、腫瘍細胞に対する認識ならびに殺傷能について解析しました。さらに、ICIならびにプロバイオティクスが投与された肺がん患者さんの検体を用いて、様々な免疫細胞の頻度ならびに活性化マーカーの発現を解析し、それらと治療成績との関連性について調べました。

[成果]

CBM588成分による刺激によって自然免疫型T細胞の一種であるγδT細胞が誘導されることが明らかになりました。その中でもγ鎖がVγ9とδ鎖がVδ2で構成されたVγ9Vδ2 T細胞が主要な集団であり、既報と一致して、ブチロフィリン分子(BTN2A1/BTN3A1)を介してホスホ抗原を感知することで腫瘍細胞を認識ならびに殺傷することが明らかになりました。

  ICI単独ならびにICI+プロバイオティクスの併用が行われた肺がん患者さん由来の末梢血単核球の比較解析によって、ICIにプロバイオティクス製剤の投与が行われた患者さんにおいて、活性化マーカーであるCD69を発現するVγ9Vδ2 T細胞(CD69+ Vγ9Vδ2 T細胞)の頻度が有意に高いことが明らかになりました(図2A)。また治療前後における比較解析を行ったところ、CD69+ Vγ9Vδ2 T細胞の頻度は治療前と比較して、治療後に有意に高いことも明らかになりました。

 CD69+9Vδ2 T細胞と治療成績について解析を行ったところ、Vγ9Vδ2 T細胞上のCD69の発現量の高い肺がん患者さん(治療後)において、有意に生存期間の延長が認められることが明らかになりました。

[展開]

これまで、多くの臨床研究において腸内細菌叢とがん治療効果について相関解析が行われてきましたが、その分子機序については不明な点が多く残されていました。本研究によって、プロバイオティクス成分によって誘導され、且つ、抗腫瘍活性を示すヒトγδT細胞を同定しました。さらに、ICI(がん免疫療法)にプロバイオティクス製剤が投与された肺がん患者さんにおいて、これらのγδT細胞の活性化が有意に認められ、末梢血中に活性化したγδT細胞が多い肺がん患者さんは良好な治療成績と関連していることを明らかにしました。本研究成果は、ICIの治療成績向上に寄与するプロバイオティクス製剤による免疫学的な作用機序を明らかにしたものであり、将来のヒト臨床試験で治療効果を予測するための新たなバイオマーカーとしての利用が期待されます。また、過去に報告された研究成果からは、進行がん患者さんにおいてICIにプロバイオティクス製剤が併用されることにより生存期間が延長する可能性が示唆されており、本研究成果はICIの治療効果増強に関連する免疫学的メカニズムの解明、ならびに、科学的な機序に基づく臨床試験デザインの構築へと発展することが期待されます。 

[参考文献]

  1. Tomita et al., Cancer Immunology Research 8:1236-1242 (2020).
  2. Dizman et al., Nat Med. 28(4):704–712 (2022).
  3. Ebrahimi et al., Nat Med. 30(9):2576–2585 (2024).

 

[用語解説]

(注1) ヒトレトロウイルス学共同研究センター

ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)やヒトT 細胞白血病ウイルス(HTLV-1)などの難治性ヒトレトロウイルスの克服を共通目標に、熊本大学と鹿児島大学が大学の枠を越えて 2019 4 月に新設した研究センター。

(注2) γδT細胞

体内の免疫を担うT細胞の一種で、がん細胞や感染細胞などの異常を感知して攻撃する働きを持つ免疫細胞。特に「Vγ9Vδ2 T細胞」と呼ばれるタイプは、ヒトの血液中に多く存在し、がんに対する免疫応答に関与することが知られている。

 

(論文情報)

論文名:A probiotic bacterium modulates antitumor γδ T-cell responses in lung cancer

著者:後藤由比古#Garry Dolton#Hannah ThomasThéo Morin、田嶋祐香、今村光佑、坂田晋也、岡健太郎、林篤史、高橋志達、上野貴将、坂上拓郎、冨田雄介*Andrew K. Sewell*、本園千尋*(#Equal first authors, *Co-corresponding authors) 

掲載誌:Frontiers in Immunology

doi:10.3389/fimmu.2026.1750569

URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2026.1750569

【詳細】 プレスリリース(PDF540KB)

 

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感染予防部門感染免疫分野

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