多発性骨髄腫増殖に関わる新規エピゲノム制御機構を解明~KDM5Aを標的にした治療法開発に期待~

【ポイント】

  • ヒストン修飾制御を介する多発性骨髄腫細胞増殖の新しい仕組みを発見しました。
  • ヒストン修飾酵素KDM5Aを阻害することで多発性骨髄腫細胞の増殖が抑えられることがわかりました。
  • 本研究で開発したKDM5阻害剤を土台として今後臨床応用可能な薬剤が開発されれば、新しい治療法に発展していくことが期待されます。

【概要説明】

 熊本大学生命資源研究・支援センターの大口裕人准教授らの研究グループは、3大血液がんのひとつである多発性骨髄腫におけるヒストン脱メチル化酵素KDM5Aの機能を解析し、KDM5Aが骨髄腫細胞の増殖を促す仕組みを解明しました。これまでヒストンメチル化修飾の一つであるH3K4me3は、遺伝子の転写※1を活性化することが知られていましたが、本研究では過剰なH3K4me3は逆説的に転写を阻害すること、そして、KDM5Aが一時的にこの修飾を解除することでがん増殖に関わる遺伝子の転写を助けていることを発見しました。また、新規KDM5阻害剤を開発し、KDM5阻害剤が骨髄腫細胞の増殖を抑制することを骨髄腫マウスモデルで明らかにしました。今後、KDM5Aを標的とした新しい治療法の開発に発展していくことが期待されます。

 本研究成果は、米国癌学会誌「Blood Cancer Discovery」に令和3年4月10日(土)にOnlineFirst版で公開されました。

 本研究は、熊本大学大学院生命科学研究部微生物薬学講座の増田豪助教、大槻純男教授、同発生医学研究所細胞医学分野の日野信次朗准教授、中尾光善教授、同大学院生命科学研究部血液・膠原病・感染症内科学講座の河野和助教、松岡雅雄教授、同生命資源研究・支援センター分子血管制御分野の南敬教授、ケース・ウェスタン・リザーブ大学のBerkley Gryder助教、ダナ・ファーバー癌研究所のKenneth Anderson教授、秀島輝主任研究員、Jun Qi助教ら複数の研究グループとの共同研究です。

 本研究は、科学研究費補助金(18H06167,19K21276)、公益財団法人持田記念医学薬学振興財団研究助成、公益財団法人新日本先進医療研究財団助成、高松宮妃癌研究基金研究助成(18-25002)、公益財団法人小林がん学術振興会研究助成、公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団研究助成、日本血液学会研究助成、日本骨髄腫学会奨励賞、熊本大学発生医学研究所トランスオミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業、熊本大学国際先端医学研究機構国際共同研究支援事業の支援を受けて行われました。

 

【展開】

 本研究により、ヒストン修飾制御を介する骨髄腫細胞増殖の仕組みの一端が解明され、また、KDM5Aを標的とした治療法の可能性が示されました。KDM5ファミリーは他のがん腫の増殖にも関わることが明らかにされつつあり、本研究で開発したKDM5阻害剤を土台として今後治療薬が開発されれば、これまでの治療法と組み合わせることで、多発性骨髄腫のみならず、様々ながん腫における新規治療戦略に発展していくことが期待されます。

【用語解説】

※1 転写:遺伝子の情報をRNAに写しとる過程。転写されたRNAの情報を元にタンパク質が作られ機能を発揮する。

【論文情報】

    • 論文名:Lysine Demethylase 5A is Required for MYC Driven Transcription in Multiple Myeloma
    • 著者:Hiroto Ohguchi*, Paul MC. Park, Tingjian Wang, Berkley E. Gryder, Daisuke Ogiya, Keiji Kurata, Xiaofeng Zhang, Deyao Li, Chengkui Pei, Takeshi Masuda, Catrine Johansson, Virangika K. Wimalasena, Yong Kim, Shinjiro Hino, Shingo Usuki, Yawara Kawano, Mehmet K. Samur, Yu-Tzu Tai, Nikhil C. Munshi, Masao Matsuoka, Sumio Ohtsuki, Mitsuyoshi Nakao, Takashi Minami, Shannon Lauberth, Javed Khan, Udo Oppermann, Adam D. Durbin, Kenneth C. Anderson*, Teru Hideshima*, Jun Qi*

      *Corresponding author

    • 掲載雑誌:Blood Cancer Discovery
    • DOI:10.1158/2643-3230.BCD-20-0108
    • URL:https://bloodcancerdiscov.aacrjournals.org/content/early/2021/03/30/2643-3230.BCD-20-0108

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF388KB)

お問い合わせ
熊本大学生命資源研究・支援センター
疾患エピゲノム制御分野
担当:独立准教授 大口 裕人(おおぐち ひろと)
電話:096-373-6596
e-mail: ohguchi※kumamoto-u.ac.jp
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