がん周囲の線維芽細胞が分泌する物質による胃がん難治化メカニズムを解明 ーがん微小環境を標的とした治療法開発に向けてー

【ポイント】

  • 胃がんに対して抗がん剤治療が効きにくくなる「治療抵抗性」に関わる因子として、がん関連線維芽細胞 (CAFs)1由来の分子を同定しました。
  • がん関連線維芽細胞 (CAFs)が分泌する細胞外小胞 (EVs)2中のAnnexinA6 (アネキシンA6)が胃がん細胞に取り込まれることで、抗がん剤の効果が低下することが分かりました。
  • AnnexinA6やがん関連線維芽細胞 (CAFs)をターゲットにした新たな創薬開発の可能性を見出しました。

【概要説明】

 熊本大学・国際先端医学研究機構 (IRCMS) 消化器がん生物学・内原智幸研究員(令和2年3月まで在籍)、石本崇胤特任准教授、生命科学研究部消化器外科学・馬場秀夫教授らの研究グループは、国立がん研究センター研究所、大阪市立大学、シンガポール国立大学、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターとの共同研究により、がん関連線維芽細胞 (CAFs)が分泌する細胞外小胞 (EVs)に含まれるAnnexinA6という分子が胃がん細胞に取り込まれることで抗がん剤治療抵抗性につながることを確認しました。これにより、AnnexinA6やがん関連線維芽細胞 (CAFs)をターゲットにした新たな創薬開発の可能性を見出しました。

 本研究の成果は、米国学術誌「Cancer Research」に2020年6月30日(オンライン版)に公開されました。

 

【展開】

 この研究により、胃がん細胞の周りにあるがん関連線維芽細胞(CAFs)由来のAnnexinA6が抗がん剤治療抵抗性を引き起こしていることが分かりました。今後の研究の進捗によって、胃がんにおいてAnnexinA6やがん関連線維芽細胞 (CAFs)をターゲットにした新たな創薬開発が期待されます。

【用語解説】

※1 がん関連線維芽細胞 (cancer associated fibroblasts: CAFs)

がん微小環境(がん細胞の周りの組織)を構成する線維芽細胞(がん微小環境を構成する線維を産生する細胞)であり、がん細胞の悪性化に関わるさまざまな因子を分泌することが知られています。

※2 細胞外小胞 (Extracellular vesicles: EVs)

 細胞から放出される脂質二重膜で囲まれた小胞のことでタンパク質、RNA、脂質、糖質、ミネラルなどのさまざまな分子を含有し、細胞間の情報伝達等に関わっていることが明らかにされつつあります。

【論文情報】
● 論文名:Extracellular Vesicles From Cancer-Associated Fibroblasts Containing Annexin A6 Induces FAK-YAP Activation by Stabilizing β1 Integrin, Enhancing Drug Resistance.

● 著者名:Uchihara T, Miyake K, Yonemura A, Komohara Y, Itoyama R, Koiwa M, Yasuda T, Arima K, Harada K, Eto K, Hayashi H, Iwatsuki M, Iwagami S, Baba Y, Yoshida N, Yashiro M, Masuda M, Ajani JA, Tan P, Baba H, Ishimoto T.

● 掲載雑誌:Cancer Research

● DOI:10.1158/0008-5472.CAN-19-3803.

【詳細】 プレスリリース(PDF 541KB)

お問い合わせ  

熊本大学国際先端医学研究機構

担当:石本崇胤
電話:096-373-6847
e-mail: taka1516※kumamoto-u.ac.jp
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