ヒトT細胞白血病ウイルスの持続感染を司る分子生物学的基盤を解明

【ポイント】

  • ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は、細胞に感染するとウイルスゲノムDNAが宿主細胞ゲノムDNAに組み込まれるため、感染者からウイルスを排除することが極めて難しく、慢性持続感染を引き起こします。本研究ではその慢性持続感染成立に重要なウイルス内の新たな領域(エンハンサー領域1)を発見しました。
  • 感染者の体内で起きている現象を調べるために、実際の感染者検体を用いて最先端のシングルセル解析技術を駆使して研究を進めた結果、今回の新しい発見につながりました。
  • これらの発見は、HTLV-1感染の持続性や病原性を理解する上で重要な知見であり、HTLV-1慢性持続感染を阻止する新たな治療標的の創出へと繋がる研究成果です。

【概要説明】
 熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター2熊本キャンパスの佐藤賢文教授、松尾美沙希特任助教らの研究グループは、これまでの研究でDNAプローブ3と次世代シークエンサーを用いた高感度ウイルス配列解析手法を開発しており(参考論文1)、本研究ではこの手法を用いて、これまでに未特定であったHTLV-1の慢性持続感染に関与するウイルスゲノム領域(エンハンサー領域)を発見しました。さらにウイルスが宿主細胞因子であるSRF(Serum Response Factor)ELK-1(ETS domain-containing protein Elk-1)を利用して、エンハンサー機能を獲得していること、ウイルスエンハンサーがウイルス遺伝子だけでなく、ウイルス組み込み部位周辺の宿主細胞遺伝子発現にも影響を与えることがわかりました。本研究結果は令和4年5月3日に英科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の、「医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業 戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)日・英国共同研究」「新興・再興感染症研究基盤創生事業 多分野融合研究領域」、日本学術振興会科学研究費助成事業、熊本大学みらい研究推進事業、卓越大学院生事業からの支援を受けて、関西医科大学、今村総合病院、佐賀大学医学部との共同研究として行われました。

【用語解説】

※1:エンハンサー領域

 遺伝子の転写量を増加させるために働きかけるゲノム内の転写制御領域。活性を示すメカニズムとして転写因子の結合などが知られる。

※2:ヒトレトロウイルス学共同研究センター

 HTLV-1やヒト免疫不全ウイルスなどの難治性ヒトレトロウイルスの克服を共通目標に、熊本大学と鹿児島大学が大学の枠を越えて2019年4月に新設した研究センター。

※3:DNAプローブ

 ビオチンが標識されたHTLV-1配列と相補的な配列を有する一本鎖DNA。標的のHTLV-1配列はビオチン標識DNAプローブと結合して二本鎖DNAを形成する。形成された二本鎖DNAはストレプトアビジンビーズで精製することができ、標的であるHTLV-1配列を特異的に濃縮することができる。

【論文情報】

論文名:Identification and characterization of a novel enhancer in the
HTLV-1 proviral genome
著者:Misaki Matsuo, Takaharu Ueno#, Kazuaki Monde#, Kenji Sugata#, Benjy Jek Yang Tan, Akhinur Rahman, Paola Miyazato, Kyosuke Uchiyama, Saiful Islam, Hiroo Katsuya, Shinsuke Nakajima, Masahito Tokunaga, Kisato Nosaka, Hiroyuki Hata, Atae Utsunomiya, Jun-ichi Fujisawa, Yorifumi Satou*
掲載誌:Nature communications
DOI:10.1038/s41467-022-30029-9
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-022-30029-9

【参考論文】
1.Miyazato, P. et al. Application of targeted enrichment to next-generation sequencing of retroviruses integrated into the host human genome. Sci Rep 6, 28324, doi:10.1038/srep28324 (2016).

 

【詳細】
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お問い合わせ

ヒトレトロウイルス学共同研究センター
熊本大学キャンパス
ゲノミクス・トランスクリプトミクス分野
 教授 佐藤 賢文(さとう よりふみ)
Tel:096-373-6830
E-mail:y-satoukumamoto-u.ac.jp

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