体外受精の成功率を高める精子の選別技術を開発

【ポイント】

● マイクロ流体デバイスを用いた細胞分取装置を用いて、運動能を維持したまま精子を選別する技術を開発しました。
● 本技術を用いて、精子全体の中から受精可能な精子(受精能獲得精子)だけを集めることで、体外受精における受精率が向上することを明らかにしました。
● 本技術を応用することで、実験動物や家畜の効率的な繁殖や不妊治療における体外受精の成功率の向上が期待できます。

【概要説明】

 熊本大学生命資源研究・支援センター資源開発分野の中尾聡宏研究員、竹尾透教授、生殖工学共同研究分野の中潟直己特任教授、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授は、マイクロ流体デバイスを用いた細胞分取装置を用いて、体外受精における受精率の向上に有用な精子を選別する技術を開発しました。
 精子は、射出された直後は受精することができず、生体内や培養液中で活性化することによって、受精する能力を獲得します。この現象は、受精能獲得と呼ばれ、体外受精において高い受精率を得るためには、受精能獲得精子を回収することが必要です。一般的に、特定の細胞を回収するために、細胞分取装置が用いられます。しかしながら、精子は、物理的傷害を受けやすいため、一般的に使用される細胞分取装置では、運動性を維持した精子を回収することが困難とされていました。中尾聡宏研究員らは、マウス精子を用いて種々の細胞分取装置や精子の分離に使用する培養液を検討した結果、マイクロ流体デバイスを用いた細胞分取装置で、精子を選別する最適条件を決定し、運動能を維持したまま精子を分取することに成功しました。さらに、本装置を用いて、蛍光物質で標識した受精能獲得精子を回収することにより、受精率の高い精子を分取し、体外受精に利用できることを明らかにしました。

 本技術は、実験動物や家畜の繁殖、生殖医療における不妊治療において、体外受精の成功率を高める技術として応用が期待されます。さらに、精子の性染色体を標識する技術と組み合わせることで、実験動物や家畜等の雌雄の産み分けへの応用も期待できます。
 本研究成果は、令和2年6月1日付の英科学誌「Scientific Reports」電子版において公開されました。

本研究は、日本医療研究開発機構( AMED) の創薬基盤推進研究事業「マウスバンク機能の拡充による創薬イノベーションの迅速化」および京都大学ウイルス・再生医科学研究所の再生医学・再生医療の先端融合的共同研究拠点事業の助成を受けて行われました。

 

【論文情報】
論文名:Successful selection of mouse sperm with high viability and fertility using microfluidics chip cell sorter

著者名:Satohiro Nakao, Toru Takeo, Hitomi Watanabe, Gen Kondoh, Naomi Nakagata

掲載雑誌:Scientific Reports

URL:www.nature.com/articles/s41598-020-65931-z

【詳細】 プレスリリース(PDF 273KB)

お問い合わせ  

熊本大学生命資源研究・支援センター資源開発分野 
竹尾 透
電話: 096-373-6570
e-mail: takeo※kumamoto-u.ac.jp
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