血管障害後の新生内膜形成に関わる細胞の役割を解明

【概要説明】

 アテローム性動脈硬化症注1)は、令和元年の日本人の死因第2位である心疾患や脳血管疾患の原因となる病態です。アテローム性動脈硬化症による冠動脈狭窄症や頸動脈狭窄症と、それらに対するバルーン付きカテーテル操作やステント挿入後に生じる再狭窄などの血管疾患では、血管の内側の層が厚くなる新生内膜形成を伴うことが分かっています。血管疾患を理解するためには、この新生内膜形成のメカニズム解明が重要な鍵となります。

 これまでの研究で、新生内膜の形成には血管中膜に存在する細胞や血管外膜に存在する細胞が関与していることが知られていましたが、新生内膜形成に関わる細胞の詳しい性質は明らかになっていませんでした。そこで本研究では、血管壁に存在する細胞の挙動を追跡し、新生内膜形成に関わる細胞の動態の一端を明らかにしました。

 血管壁を構成する細胞では、血小板由来成長因子受容体アルファ(PDGFRa)注2)が発現していることをヒントに、PDGFRaを発現する細胞を蛍光タンパク質で標識できるマウスを用いて、病状の異なる3種類の血管障害モデルを作製し、標識細胞が新生内膜形成にどのように関わるかを追跡しました。その結果、血管損傷の程度によって新生内膜を構成する細胞の種類が異なること、さらに、PDGFRa陽性細胞の血管障害に対する応答性が異なることを見いだしました。

 本研究により、新生内膜形成機構におけるPDGFRa 陽性細胞の役割が明らかとなり、動脈硬化をはじめとした血管疾患治療のターゲットになり得ることが期待されます。


【用語解説】

注1)アテローム性動脈硬化症
 大動脈や冠動脈、脳動脈などの動脈の内膜にコレステロールなどが溜まり、アテローム(粥状硬化病変)ができて、内膜の肥厚が起こる疾患。

注2)血小板由来成長因子受容体アルファ(PDGFRa
 血小板由来成長因子のチロシン関連型受容体で、幹細胞、前駆細胞および血管周皮細胞のマーカーとして知られる膜タンパク質。


【研究代表者】

 筑波大学生存ダイナミクス研究センター 木村 健一 助教、柳沢 裕美 教授
 熊本大学国際先端医学研究機構 佐田 亜衣子 特任准教授


【論文情報】

 論文名:Contribution of PDGFRα-positive cells in maintenance and injury responses in mouse large vessels.   
          (マウス大血管の恒常性維持と損傷反応におけるPDGFRa陽性細胞の関与について)
 
掲載誌:Scientific Reports
 掲載日:2021年421
 DOI:10.1038/s41598-021-88126-6


【詳細】
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