細胞老化を防ぐ酵素「NSD2」を発見ー老化をコントロールできる時代に向けてー

【ポイント】

  • 老化細胞において酵素「NSD2」の量が著しく減少すること、また、正常な細胞でNSD2を阻害すると速やかに老化することから、NSD2が細胞老化を防ぐ役割を持つ酵素であることが分かりました。
  • 老化細胞でNSD2が減少することにより、細胞増殖に関わる遺伝子群の発現が低下した結果、細胞増殖が持続的に停止することが分かりました。
  • 細胞老化が促進されるメカニズムを明らかにしたことから、老化のしくみの解明および制御法の開発、発生過程の病態解明につながることが期待されます。

【概要説明】

 熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の中尾光善教授、田中宏研究員、井形朋香研究員(日本学術振興会特別研究員 令和23月まで)らは、網羅的な遺伝子解析を用いて、細胞老化をブロックする酵素「NSD2」とその働きを初めて解明しました。NSD2は細胞増殖や数多くの遺伝子の働きを調節する酵素です。今回、老化細胞においてNSD2の量が著しく減少すること、また、正常な細胞でNSD2の働きを阻害すると細胞が速やかに老化することが分かりました。さらに、細胞増殖の過程でNSD2の量が増加して、増殖を促進する遺伝子群の働きを活発化する役割をもつことも解明しました。

この成果は、NSD2が減少することで細胞老化が促進されるメカニズムを明らかにしたことから、老化のしくみの解明および制御法の開発、発生過程の病態解明につながることが期待されます。

本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業、内藤記念振興財団研究助成、武田科学振興財団研究助成などの支援を受けて、老化分野の科学雑誌「Aging Cell」オンライン版に英国(GMT)時間の令和2622日【日本時間の6月23日】に掲載されました。

【用語解説】

NSD2:標的のタンパク質にメチル基(CH3)を付けることで、遺伝子の働きを調節する酵素。とりわけゲノムDNAを取り巻くヒストンタンパク質をメチル化して、近傍遺伝子の働きを活性化する。遺伝子機能のON/OFFを化学修飾によって後天的に調節する仕組み「エピゲノム」の修飾酵素のひとつ。「ウォルフ・ヒルシュホーン(Wolf-Hirschhorn)症候群」とよばれる成長障害・精神遅滞などをもつ先天性の発生異常症の原因遺伝子としても知られる。

 

【論文情報】
● 論文名:The NSD2/WHSC1/MMSET methyltransferase prevents cellular senescence-associated epigenomic remodeling

NSD2 / WHSC1 / MMSETメチル基転移酵素は、細胞老化に関わるエピゲノムリモデリングを防御している)

● 著者名(*責任著者):Hiroshi Tanaka, Tomoka Igata, Kan Etoh, Tomoaki Koga, Shin-ichiro Takebayashi, and Mitsuyoshi Nakao*

● 掲載雑誌:Aging Cell

● URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/acel.13173

● DOI:https://doi.org/10.1111/acel.13173

【詳細】 プレスリリース(PDF 467KB)

お問い合わせ  

熊本大学発生医学研究所 細胞医学分野

担当:中尾 光善(なかお みつよし)
電話:096-373-6804
e-mail: mnakao※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)