白血病の代謝の個性を生み出す仕組みを解明

【ポイント】

  • 急性骨髄性白血病の一つである赤芽球性白血病では、転写調節タンパク質であるLSD1が多く存在していることがわかった。
  • 赤芽球性白血病細胞において、LSD1は解糖系やヘム合成に関わる遺伝子の発現を促進し、特徴的な代謝の個性を生み出していることを見出した。
  • LSD1阻害薬と代謝経路を標的とした薬剤の併用により、白血病の病型に応じた特異性の高い治療戦略が期待できる。

【概要説明】

 熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の興梠健作研究員、日野信次朗准教授、中尾光善教授らは、遺伝子発現に関わる酵素「リジン特異的脱メチル化酵素1(LSD1)」が急性骨髄性白血病細胞の病型に応じた代謝の個性を生み出すことを明らかにしました。

 がん細胞は正常細胞とは異なるユニークな物質代謝能を持つことが知られ、固有の物質代謝能が治療標的として有望視されていますが、急性骨髄性白血病の代謝特性やそれが形作られる仕組みは、よく分かっていませんでした。

 この成果は白血病の進展に関わる代謝遺伝子制御メカニズムの一端を解明するものであり、現在抗がん剤として実用化が期待されているLSD1阻害薬の安全かつ効果的な使用や患者の層別化に役立つことが期待されます。

 本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金、日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」領域、SGH財団研究助成、武田科学振興財団研究助成などの支援を受けて、科学雑誌「Blood Advances」オンライン版に米国時間の令和3年4月30日に掲載されました。なお、本研究は熊本大学発生医学研究所の興梠健作研究員、日野信次朗准教授、中尾光善教授と、九州大学の佐藤哲也助教(旧所属)、産業技術総合研究所の新木和孝主任研究員、熊本大学大学院生命科学研究部小児科学分野の中村公俊教授らによる共同研究で行ったものです。


【用語解説】

※1:リジン特異的脱メチル化酵素1(LSD1)
 タンパク質中のメチル化されたリジン(アミノ酸のひとつ)のメチル基を除去する酵素。ヒストンH3タンパク質や転写因子の機能を調節して遺伝子発現制御に働く。

 ※2:解糖系
 細胞内に取り込んだグルコースを代謝してエネルギーを合成する代謝経路。

 ※3:ヘム合成
 グリシン、スクシニルCoAや鉄イオンを材料として、ヘモグロビンの元となるヘムを合成するミトコンドリア内の代謝経路。


【論文情報】

論文名:LSD1 defines erythroleukemia metabolism by controlling lineage-specific transcription factors GATA1 and C/EBPα(LSD1は系譜特異的な転写因子を制御することによって赤芽球性白血病の代謝を規定する)
著者:Kensaku Kohrogi, Shinjiro Hino*, Akihisa Sakamoto, Kotaro Anan, Ryuta Takase, Hirotaka Araki, Yuko Hino, Kazutaka Araki, Tetsuya Sato, Kimitoshi Nakamura, and Mitsuyoshi Nakao*      (* 責任著者 )
掲載誌: Blood Advances
doi:https://doi.org/10.1182/bloodadvances.2020003521
URL:https://ashpublications.org/bloodadvances/article/5/9/2305/475840/LSD1-defines-erythroleukemia-metabolism-by


【詳細 プレスリリース(PDF607KB)

お問い合わせ  

熊本大学発生医学研究所 細胞医学分野
准教授 日野 信次朗 (ひの しんじろう)
教授 中尾 光善(なかお みつよし)
電話:096-373-6804
E-mail:s-hino※kumamoto-u.ac.jp 
      mnakao※gpo.kumamoto-u.ac.jp

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