造血幹細胞が自己複製分裂する仕組みを解明: 造血幹細胞の体外増幅技術への応用に期待
(ポイント)
- マウス造血幹細胞*1が自己複製分裂*2する仕組みを解明しました。
- その仕組みを参考に、機能的なマウス造血幹細胞を体外で500倍以上に増やす培養条件を確立しました。
- 当該メカニズムはヒト造血幹細胞の体外増幅技術への応用を介して、造血幹細胞移植治療の発展に寄与することが期待されます。
(概要説明)
熊本大学国際先端医学研究機構の梅本晃正クロスアポイントメント准教授を中心とした研究チーム(東京女子医科大学、東京大学、北京協和医学院学、化学及血清療法研究所との共同研究グループ)と共に、マウス造血幹細胞を用いた研究にて、血液細胞の源となる造血幹細胞が自己複製分裂する仕組みを解明しました。造血幹細胞は骨髄移植療法においては骨髄再建の主役となる細胞であるため、今回の発見は、造血幹細胞を体外で増幅する技術の開発において、非常に重要な知見になると考えられます。
本研究の成果は、「Nature Communications」に日本時間の令和 8 年 9 月5日にオンライン掲載されました。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラム「骨髄造血再生期に学ぶ造血幹細胞の自己複製分裂誘導法の開発」、橋渡し研究支援プログラム「体外増幅した自家造血幹細胞を用いた次世代型骨髄抑制治療法の開発」、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(B)23H02937、23K27628; 挑戦的研究(萌芽) 24K22135)、公益財団法人 先進医薬研究振興財団、公益財団法人 新日本先進医療研究財団、公益財団法人 武田科学振興財団、公益財団法人 G-7奨学財団、公益財団法人テルモ生命科学振興財団、公益財団法人 高松宮妃癌研究基金の支援を受けて実施されました。
(説明)
[背景]
血液細胞の源である造血幹細胞は、白血病などの治療で行われる骨髄移植において主役となる重要な細胞です。造血幹細胞は自らと同じ細胞を生み出す「自己複製分裂」と、様々な血液細胞へと変化する「分化*3」の能力を持っています。しかし、体外で培養すると自己複製よりも分化が優先されてしまい、未分化な性質を保ったまま体外で大量に増やす(増幅する)ことは非常に困難であり、医療応用に向けて大きな課題となっていました。
[研究の内容]
古くより、造血幹細胞は通常は骨髄内に存在し、滅多に分裂しない“静止状態”を維持していますが(図1左上:定常状態)、放射線照射や抗がん剤投与等で骨髄造血組織が損傷すると、盛んに分裂して傷ついた造血組織を再生します(図1右上:造血再生期)。以前、研究チームは造血再生期の初期に造血幹細胞の自己複製分裂をすることを見出していました。そこで、研究チームは、マウス体内において造血幹細胞が活発に自己複製分裂を行っている造血再生(骨髄再生)時の状態に着目して解析を行いました。その結果、マウス体内で自己複製分裂する造血幹細胞内では体外培養時に分化してしまう造血幹細胞と比較して、アミノ酸の一種である「グルタミン酸」の濃度が著しく低いことが判明しました(図1左下、右上)。
そこで、体外培養時にグルタミン酸を代謝する酵素である「グルタミン酸脱水素酵素(Glud1)*4」の働きを抑え、マウス体内で自己複製分裂中の造血幹細胞の代謝状態の一部を模倣することで、体外培養時でも造血幹細胞の自己複製分裂を誘導できないか検証しました(図1右下)。
[成果]
一般的な培養液に、Glud1の働きを阻害する薬剤(R162)を添加してマウス造血幹細胞を培養したところ、造血幹細胞は分化することなく未分化な性質と分裂能力を維持し続けました(図2)。更に、5日ごとに造血幹細胞を純化しながら、30日間の培養を続けることで造血幹細胞の表現型を示す細胞を700倍以上に(図3)、そして、機能的な造血幹細胞を約500倍に増幅することに成功しました。さらに詳細な解析により、Glud1の働きを抑えつつ、細胞の増殖に関わる情報伝達経路(JAK-STATシグナル*5)を強く活性化させることで、細胞が分化へ向かう経路が遮断され、自己複製が促進されるという新しいメカニズムを明らかにしました。
[展開]
本研究により、代謝酵素であるGlud1を標的とすることで、造血幹細胞の自己複製をコントロールできることが示されました。今後、この仕組みを応用した培養技術がヒトの造血幹細胞の体外増幅技術へと発展すれば、ドナー不足や採取細胞数の少なさが課題となっていた造血幹細胞移植(骨髄移植や臍帯血移植など)の治療成績向上や、新たな再生医療・遺伝子治療の発展に大きく貢献することが期待されます。
[用語解説]
*1 造血幹細胞:
赤血球、白血球、血小板など、血液中のすべての細胞の元となる幹細胞。
*2 自己複製分裂:
幹細胞が分裂する際、自分と全く同じ能力を持つ幹細胞を新たに作り出す分裂のこと。
*3 分化:幹細胞が特定の機能を持つ成熟した細胞へと変化していく過程。
*4 グルタミン酸脱水素酵素(Glud1):
アミノ酸の一種であるグルタミン酸を代謝し、細胞のエネルギー産生などに関わる酵素。
*5 JAK-STATシグナル:
細胞の外からの刺激(サイトカインなど)を細胞の核へ伝え、細胞の増殖や生存に関わる遺伝子の働きを調節する重要な情報伝達経路。
(論文情報)
論文名:Suppressing glutamate dehydrogenase guides hematopoietic stem cell divisions into self-renewal.
著者:Michihiro Hashimoto1, Michie Uchikawa1, Yuichiro Arima2, Akiyasu Iwase3, Ayano Yahagi4, Mizuki Ishimaru1, Tomomasa Yokomizo4, Ayako Nakamura-Ishizu4, Yosuke Tanaka5, Kenichi Miharada7, Hiroki Kurihara3,6, Goro Sashida8, Toshio Suda5,9, and Terumasa Umemoto1,10
1) 熊本大学 国際先端医学研究機構 造血幹細胞工学研究室
2) 熊本大学 大学院生命科学研究部 形態構築学講座
3) 東京大学アイソトープ総合センター
4) 東京女子医科大学の顕微解剖学・形態形成学分野
5) 熊本大学 国際先端医学研究機構 幹細胞制御研究室
6) 熊本大学 国際先端医学研究機構 多細胞動力学研究室
7) 熊本大学 国際先端医学研究機構 幹細胞プロテオスタシス研究室
8) 熊本大学 国際先端医学研究機構 白血病転写制御研究室
9) 北京協和医学院
10) 化学及血清療法研究所
掲載誌:Nature Communications
doi:10.1038/s41467-026-77151-6
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-026-77151-6
【詳細】 プレスリリース(PDF568KB)
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熊本大学国際先端医学研究機構
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