細胞の老化を防ぐ酵素「SETD8」を発見-老化をコントロールできる時代に向けて-
熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の中尾光善教授、田中宏研究員(同大学院医学教育部博士課程修了)らは、網羅的な遺伝子解析を用いて、細胞の老化をブロックする酵素とそのしくみを初めて解明しました。「SETD8
※1
」は細胞増殖や数多くの遺伝子の働きを調節する酵素です。今回、老化細胞
※2
においてSETD8の量が著しく減少すること、また、正常な細胞でSETD8を阻害すると細胞が速やかに老化することが分かりました。また、老化細胞はエネルギー産出能力が高く、そのしくみも不明でしたが、SETD8が減少することによって細胞内の核小体
※3
とミトコンドリア
※4
に関わる遺伝子群の働きが活発化し、タンパク質合成とエネルギー産生が増加することを解明しました。
この成果は、SETD8が減少することで細胞老化が促進されるメカニズムを明らかにしたことから、老化のしくみの解明および制御法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)、文部科学省科学研究費補助金、武田科学振興財団研究助成、熊本大学の博士課程教育リーディングプログラム「グローカルな健康生命科学パイオニア養成プログラムHIGO」および拠点形成研究の支援を受けて、
科学雑誌「セル・リポート(
Cell Reports
)」オンライン版
に米国(EST)時間の平成29年2月28日12:00【日本時間の3月1日(水)2:00】に掲載されました。
◆身体を構成する細胞は、さまざまなストレス ※5 を受けると、その増殖を不可逆的に停止し、細胞老化に特有の特徴を生じる。とりわけ、エネルギー産生能(代謝 ※6 活性)が増加するが、そのメカニズムは明らかではない。
◆SETD8は標的のタンパク質をメチル化する修飾酵素として、細胞増殖や遺伝子の働きを調節するが、老化との関わりは知られていない。
◆老化細胞においてSETD8の量が著しく減少すること、また、正常な細胞でSETD8を阻害すると速やかに老化することから、細胞老化の防御因子であることが分かった。
◆老化細胞でSETD8が減少して、細胞内の核小体とミトコンドリアに関わる遺伝子群が高発現する結果、タンパク質合成とエネルギー産生が増加する。
(用語説明)
※1 SETD8:標的のタンパク質にメチル基(CH3)を付ける酵素で、細胞増殖と遺伝子の働きを調節する。ゲノムDNAを取り巻くヒストンタンパク質をメチル化して、遺伝子の働きを抑制する。
※2 細胞老化:細胞の増殖を不可逆的に停止した状態。活発な活動を行うため、細胞死とは異なる。この状態の細胞を老化細胞という。
※3 核小体:細胞核の中にある構造体で、リボソームにおけるタンパク質の合成を調節する。
※4 ミトコンドリア: 細胞質に多数ある構造体で、細胞のエネルギー産生を担う。
※5 ストレス: 細胞分裂による増殖、がん遺伝子の活性化、物理的・化学的な刺激などは、細胞老化を引き起こす。
※6 代謝:細胞が糖・タンパク質・脂質などを利用して、エネルギーを産生・消費する仕組み。
【論文名】
The SETD8/PR-Set7 methyltransferase functions as a barrier to prevent senescence-associated metabolic remodeling
(SETD8/PR-Set7 メチル基転移酵素は、細胞老化に関わる代謝リモデリングを防御している)
【著者名(*責任著者)】
Hiroshi Tanaka, Shin-ichiro Takebayashi, Akihisa Sakamoto, Tomoka Igata, Yuko Nakatsu, Shinjiro Hino, and Mitsuyoshi Nakao*
【掲載雑誌】
Cell Reports
【詳細】
プレスリリース本文
(PDF 365KB)
熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野
担当:教授 中尾 光善(なかお みつよし)
TEL/FAX:096-373-6804
e-mail:mnakao※kumamoto-u.ac.jp
<AMEDの事業に関すること>
日本医療研究開発機構 戦略推進部 研究企画課
TEL:03-6870-2224
FAX:03-6870-2243
e-mail:kenkyuk-ask※amed.go.jp
(メール送信の際は※を@に換えてください)