腸内細菌の流入を探知して腸管修復を促進する造血応答を発見

【ポイント】

本研究によって、次の3点が明らかになりました。

  • 急性腸炎が起こると、骨髄に存在する造血幹細胞など未熟な造血細胞が活性化して増殖すること。
  • 一部の造血細胞は炎症の場である腸管リンパ節※1に移動して、腸管組織の修復を行う細胞へと分化すること。
  • これらの造血応答は、腸内細菌の一つであるBacteroidesという細菌の体内流入が引き金となって起こること。
    【概要説明】

 熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)幹細胞ストレス研究室・滝澤仁特別招聘教授、神奈川県立産業技術総合研究所実用化実証事業腸内環境デザイングループ・福田真嗣グループリーダーらの研究グループは、大腸炎発症後の組織修復における造血応答の重要性を明らかにしました。本研究成果によって、今後、炎症性腸疾患※2に対する新たな予防や治療法の開発が期待されます。

本研究成果は、令和4年10月18日に学術雑誌「EMBO J」に掲載されました。

 

【展開】

 本研究成果は、炎症性腸疾患で苦しむ患者の方に対して、新たな予防や治療法の可能性を示唆するものです。炎症性腸疾患の患者ではBacteroidesが減少していることが知られているので、例えば、腸内細菌叢移植療法により患者腸内のBacteroidesを増やすことで寛解維持に寄与したり、組織修復細胞を移植することで腸炎を抑えて寛解導入したりすることが期待されます。

【展開】

 今後は、造血細胞がどのように腸管組織を修復する細胞へと分化するのか、また分化した組織修復細胞がどのような機能を果たして組織修復に関与しているのかについて明らかにすべく、詳細な解析に取り組む予定です。

【用語解説】

※1リンパ節:体のほとんどの部分に存在し、免疫細胞が免疫反応を行う場所。

※2炎症性腸疾患:炎症性腸疾患はクローン病や潰瘍性大腸炎の総称であり、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる疾患で、主な症状は下痢や腹痛です。難病指定されており、日本の患者数はおよそ30万人と見積もられています。


【論文情報】

  • 論文名:Hematopoietic stem and progenitor cells integrate microbial signals to promote post-inflammation gut tissue repair
  • 著者:Maiko Sezaki, Yoshikazu Hayashi, Gaku Nakato, Yuxin Wang, Sayuri Nakata, Subinoy Biswas, Tatsuya Morishima, Md Fakruddin1, Jieun Moon, Soyeon Ahn, Pilhan Kim, Yuji Miyamoto, Hideo Baba, Shinji Fukuda, and Hitoshi Takizawa
  • 掲載誌:EMBO Journal

【詳細】 プレスリリース(PDF649KB)

 

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