どの種類の筋肉細胞になるかは酵素「LSD1」が調節 -酵素とホルモンによる、骨格筋の分化と代謝調節メカニズムを解明-

熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の阿南浩太郎研究員(同大学院医学教育部博士課程修了)、日野信次朗准教授、中尾光善教授らは、網羅的な遺伝子解析を用いて、どの種類の骨格筋細胞になるかを決める遺伝子プログラムと、代謝方法を決める遺伝子プログラムとをLSD1酵素が調節する仕組みを解明しました。「LSD1」は特定の遺伝子群の働きを抑制する酵素です。今回、骨格筋細胞の元となる細胞が各骨格筋細胞(運動を担う速筋や姿勢を担う遅筋)になる過程において、LSD1がミトコンドリア代謝および遅筋型の遺伝子群の働きを抑制して、速筋化を誘導することが分かりました。また、体内の代謝バランスを保持するホルモン「グルココルチコイド」が作用すると、細胞内でLSD1が分解されて、ミトコンドリア代謝および遅筋型の遺伝子群の働きが増加しました。さらに、グルココルチコイドとLSD1阻害薬剤を組み合わせると、ミトコンドリア代謝および遅筋化が強く促進されることを見出しました。
この成果は、酵素とホルモンによる骨格筋の分化と代謝の制御に関わるメカニズムを明らかにしたことから、現代社会で注目される骨格筋の形成と健康維持、加齢性変化(骨格筋量の低下(サルコペニア)、肥満・糖尿病など)の新しい制御法への応用が期待されます。

本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金、武田科学振興財団研究助成などの支援を受けて、英国科学雑誌「Nucleic Acids Research」オンライン版に日本時間の平成30年3月29日に掲載されました。なお、本研究は熊本大学発生医学研究所が、東京大学の清水宣明講師、田中廣壽教授、九州大学の沖真弥助教、熊本大学小児科学分野の遠藤文夫名誉教授、中村公俊教授との共同研究で行ったものです。

【論文名】
LSD1 mediates metabolic reprogramming by glucocorticoids during myogenic differentiation
(骨格筋分化において、LSD1酵素はグルココルチコイドによる代謝プログラムを調節する)

【著者名】
Kotaro Anan, Shinjiro Hino*, Noriaki Shimizu, Akihisa Sakamoto, Katsuya Nagaoka, Ryuta Takase, Kensaku Kohrogi, Hirotaka Araki, Yuko Hino, Shingo Usuki, Shinya Oki, Hirotoshi Tanaka, Kimitoshi Nakamura, Fumio Endo, and Mitsuyoshi Nakao*

【掲載雑誌】
Nucleic Acids Research
(Oxford University Press)

【DOI】
10.1093/nar/gky234

【URL】
https://academic.oup.com/nar

【詳細】
プレスリリース本文 (PDF374KB)

お問い合わせ
発生医学研究所 細胞医学分野
担当:
教授 中尾 光善
准教授 日野 信次朗
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