腹水中の老化細胞が胃がん腹膜播種の増大を引き起こす新たなメカニズムを解明!ーがん腹膜播種完全コントロールに向けた挑戦ー

(ポイント)

  • 細胞老化※1を起こしたがん関連線維芽細胞(CAFs)※2が、がん細胞の進展を促進するタンパク質を長期にわたり分泌し続けるメカニズムを明らかにしました。
  • がん腹膜播種※3を起こした胃がん患者の腹水中に、老化関連タンパク質を長期間分泌するがん関連線維芽細胞(CAFs)が存在し、がん腹膜播種の増大に関わることを証明しました。
  • がん腹膜播種に対する、新たな治療戦略に向け大きな可能性を見出しました。

(概要説明)

 熊本大学 国際先端医学研究機構(IRCMS) 消化器がん生物学(研究責任者:石本崇胤特任准教授)の安田忠仁研究員、小岩麻由(医学科学生)、大学院生命科学研究部消化器外科学の馬場秀夫教授らの研究グループは、がん研究所、シンガポール国立大学との共同研究により、がん関連線維芽細胞(CAFs)の細胞老化が、胃がん腹膜播種巣の進展に重要であることを、がん性腹水を用いた細胞分画の解析によって証明しました。これにより、スキルス胃がんによる腹膜播種患者に対して、播種巣のがん細胞だけでなく、CAFsをターゲットとした今までにないがん腹膜播種の治療法の開発が期待できます。この研究成果は、令和3年2月23日午前11時(米東部時間)に、米国Cell press社が刊行する国際的科学雑誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。

 

(用語解説)

※1:細胞老化:

DNA損傷、がん遺伝子の活性化、ストレスなどで誘導される不可逆的な細胞増殖の停止を指す。細胞老化を起こした細胞はがんの増殖にかかわる老化関連タンパク質を合成・分泌し、慢性の炎症を起こす。

※2:がん関連線維芽細胞(cancer associated fibroblasts: CAFs):

がん微小環境(がん細胞の周りの組織)を構成する線維芽細胞(がん微小環境を構成するコラーゲンを産生する細胞)であり、がん細胞の悪性化に関わるさまざまな因子を分泌することが知られている。

※3:腹膜播種:

がん細胞が胃や腸などの臓器の壁を突き破り、お腹の中に散らばって、臓器とお腹の壁の内側を覆っている薄い膜(腹膜)へ生着すること。

  

(論文情報)

論文名:Inflammation-driven senescence-associated secretory phenotype in cancer-associated fibroblasts enhances peritoneal dissemination
著者:Yasuda T, Koiwa M, Yonemura A, Miyake K, Kariya R, Kubota S, Yokomizo-Nakano T, Yasuda-Yoshihara N, Uchihara T, Itoyama R, Bu L, Fu L, Arima K, Izumi D, Iwagami S, Eto K, Iwatsuki M, Baba Y, Yoshida N, Ohguchi H, Okada S, Matsusaki K, Sashida G, Takahashi A, Tan P, Baba H and Ishimoto T.

掲載誌:Cell Reports
doi:10.1016/j.celrep.2021.108779
URL:https://doi.org/10.1016/j.celrep.2021.108779

 

(詳細)
  プレスリリース本文(PDF468KB)

お問い合わせ

熊本大学 国際先端医学研究機構(IRCMS)
担当:石本崇胤(特任准教授)
電話:096-373-6847
e-mail:taka1516※kumamoto-u.ac.jp
(迷惑メール対策のため@を※に置き換えております)