多能性幹細胞を用いて胎児腎臓の高次構造を再現 ~腎臓の再生に向け前進~

【ポイント】
◆胎児の腎臓を構成する3種類の細胞集団、「ネフロン前駆細胞」、「尿管芽」、「間質前駆細胞」のうち、ネフロン前駆細胞以外は多能性幹細胞からの作製法が確立されておらず、これまで腎臓本来の「高次構造」を再現することは困難であった。
◆マウスを用いて尿管芽の発生過程を詳細に解析することによって、マウスES細胞およびヒトiPS細胞から尿管芽を人工的に誘導する方法を確立した。
◆マウスES細胞から別々に誘導した尿管芽とネフロン前駆細胞を、マウス胎仔の間質前駆細胞と組み合わせることで、胎児の腎臓に特徴的な「高次構造」をもつ腎組織が再現された。
◆遺伝子変異を導入したヒトiPS細胞から尿管芽を作製することによって特定の遺伝子変異による尿管芽の形成異常が観察された。
◆多能性幹細胞からの腎臓作製・再生応用研究に向けた基盤戦略を示すとともに、ヒトの遺伝子異常による病態解析に貢献することが期待される。

胎児の腎臓は、「ネフロン前駆細胞」、「尿管芽」、「間質前駆細胞」と呼ばれる大きく分けて3種類の前駆細胞群 ※1 が互いに作用しあうことによってその立体構造(高次構造)を形成します。熊本大学発生医学研究所の研究グループ(太口敦博助教、西中村隆一教授ら)はこれまでに、マウスES細胞 ※2 およびヒトiPS細胞 ※3 といった多能性幹細胞 ※4 からネフロン前駆細胞を誘導する方法を確立していました。これにより、多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を経て、糸球体や尿細管を含むネフロンと呼ばれる腎臓を構成する「小構造」を作製することに成功していましたが、その他の前駆細胞が含まれないために腎臓本来の「高次構造」の再現はできていませんでした。そこで、同グループは今回、特にネフロン同士の接続や配置といった腎臓の立体構造の秩序形成に特に重要な役割を果たす「尿管芽」に注目し、多能性幹細胞から尿管芽を誘導する方法の開発を行い、腎臓の高次構造の再現に成功しました。
これらの成果は、腎臓という複雑な臓器の形を試験管内でどのように再現するかという課題に対する基盤的戦略を提示するとともに、その実現可能性を示したものです。また、この技術を用いることで、先天性腎疾患を中心とした遺伝子異常に伴う腎臓の病態を再現できる可能性があり、病因の解明と創薬開発に繋がることも期待されます。
本研究成果は、 科学雑誌「Cell Stem Cell」オンライン版 に11月9日 正午(アメリカ東部時間)【日本時間の11月10日 2:00 AM】に掲載されました。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(S)、若手研究(B))及びAMED再生医療実現拠点ネットワークプログラムの支援を受けました。


【用語解説】
※1 前駆細胞:特定の体細胞の元になる細胞。発生過程で受精卵のような多能性細胞から最終分化した細胞に至る中途段階の細胞。
※2 ES細胞:受精卵から作られた多能性幹細胞。胚性幹細胞。
※3 iPS細胞:皮膚や血液などの体細胞に遺伝子を導入して作られた多能性幹細胞。人工多能性幹細胞。
※4 多能性幹細胞:ES細胞やiPS細胞など、様々な体細胞に分化し得る細胞

【論文名】
Higher-order kidney organogenesis from pluripotent stem cells
Cell Stem Cell, in press (2017)
Atsuhiro Taguchi and Ryuichi Nishinakamura.

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF540KB)

研究内容に関する問い合わせ
熊本大学発生医学研究所
腎臓発生分野
教授 西中村 隆一
(にしなかむら りゅういち)
電話:096-373-6615
E-mail:ryuichi※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)