全遺伝子の発現変動を「見える化」するアプリの開発-天然化合物「スルフォラファン」の新たな機能を解明-

【ポイント】

  • 細胞・組織における全遺伝子の発現情報がシークエンス法で調べられて、公共データベースに集約されます。そのビックデータを分析するには情報科学の専門知識が必要なため、多くの研究者のハードルになっています。
  • 全遺伝子の発現変動を自動的に解析・可視化するウェブアプリ「RNAseqChef」を開発・公開しました。情報科学の習得の有無にかかわらず、再現性のあるデータ解析を簡便に効率よく実施できます。
  • RNAseqChefを用いて、ブロッコリー等に含まれる天然化合物「スルフォラファン」の作用は細胞・組織の種類によって異なること、小胞体ストレス応答を促進して生体機能を活性化することを明らかにしました。
    【概要説明】

 熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の衛藤 貫研究員と中尾光善教授は、プログラミング言語を用いて、RNAシークエンス(RNA-seq)法により取得した遺伝子の発現情報を自動的に解析するウェブアプリ「RNAseqChef」を新たに開発・公開しました(http://imeg-ku.shinyapps.io/RNAseqChef)。RNA-seq法は遺伝子の働きを調べる上で、生命科学分野において幅広く用いられる基本的な技術です。国内外の公共データベースには様々な細胞・組織のRNA-seqデータが集約されていますが、情報科学の専門知識が必要なため、多くの研究者が利用するにはハードルがあります。本研究により、情報科学の習得の有無にかかわらず、学生・初心者、医師及び産官学の研究者を含めて、再現性のあるRNA-seqデータの解析が簡便に効率よく可能になります。
    ブロッコリー等に含まれる天然化合物「スルフォラファン」は抗酸化や抗炎症、抗肥満など、健康増進につながる多様な効果を有することが報告されています。その一方で、スルフォラファンが細胞・組織に対してどのようなメカニズムで作用するのかは明らかでありません。RNAseqChefの科学的な有用性を実証するために、公共データベースの中から、スルフォラファンを投与したヒト培養細胞とマウスで取得されたRNA-seqデータを解析しました。その結果、細胞・組織の種類によってスルフォラファンへの感受性や応答が異なることが明らかになりました。さらに、スルフォラファンの作用機序として、抗酸化を促進する制御因子「NRF2」を活性化することが唯一知られています。RNAseqChefによる解析で、小胞体ストレス応答を誘導する制御因子「ATF6」を活性化することが明らかになりました。高脂肪食による肥満マウスにスルフォラファンを投与して得られたRNA-seqデータを調べたところ、肝臓特異的に小胞体ストレス応答の遺伝子発現が促進されることが分かりました。スルフォラファンが生体機能を高める分子機序の解明につながると考えられます。
    RNAseqChefを無償公開することで、遺伝子発現のビックデータが上記のように簡便に効率よく解析可能となり、医学・薬学・農学などの幅広い生命科学分野の研究の加速、とりわけ、臨床研究のデータ解析、化合物・薬剤の作用機序の解明などへの貢献が期待されます。
   本研究成果は、文部科学省科学研究費助成事業、熊本大学発生医学研究所高深度オミクス事業研究助成などの支援を受けて、米国生化学・分子生物学会誌「Journal of Biological Chemistry(JBC)」オンライン版に英国(GMT)時間の令和5年5月11日【日本時間の5月12日】に掲載されました。また、本研究成果はJBCの「Editors’ Picks」にも選ばれました。

【論文情報】

  • 論文名:A web-based integrative transcriptome analysis, RNAseqChef, uncovers cell/tissue type-dependent action of sulforaphane 
    (トランスクリプトームの統合解析ウェブアプリRNAseqChefは細胞・組織特異的なスルフォラファンの作用を明らかにする)
  • 著者名(*責任著者):Kan Etoh and Mitsuyoshi Nakao*
  • 掲載雑誌:Journal of Biological Chemistry
  • DOI:10.1016/j.jbc.2023.104810
  • URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0021925823018380

    【お問い合わせについて】

この研究成果につきましては、熊本大学発生医学研究所細胞医学分野に
お問い合わせください。ご説明する機会を予定させていただきます。

【詳細】 プレスリリース(PDF557KB)

 

icon.png sdg_icon_03_ja_2.png  

<熊本大学SDGs宣言>

お問い合わせ

熊本大学発生医学研究所 細胞医学分野
担当:教授   中尾 光善(なかお みつよし)

      研究員  衛藤 貫(えとう かん)
電話:096-373-6804
E-mail:mnakao※gpo.kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)