腸内細菌の体内流入による免疫異常とそれによる骨髄外造血が起こる仕組みを発見

【ポイント】

  • ヒト腸内細菌の一種であるAkkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)の体内流入が脾臓※1における未熟な造血細胞の増殖を引き起こすことが分かりました。
  • 上記の反応は免疫を司る分子であるToll様受容体と炎症反応に関与する生理活性物質であるIL-1αを介していることが分かりました。
  • 今回得られた知見は、骨髄以外の臓器で起こる造血や自己免疫疾患の理解とこれらに対する新規治療法の開発に繋がると考えられます。


【研究の内容】

 炎症性腸疾患※2の患者は関節炎を併発すること、また、関節リウマチ等の自己免疫疾患の患者は造血機能の異常や脾腫を合併する例があることが知られています。炎症性腸疾患の患者では腸の炎症により腸管上皮のバリア機能が低下することで腸内細菌が体内に侵入する可能性が示唆されていますが、これらが造血や免疫の異常を引き起こすかどうかについては明らかになっていませんでした。
    今回、熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)幹細胞ストレス研究室の滝澤仁特別招聘教授らの研究グループは、南方医科大学(中国)、神奈川県立産業技術総合研究所、慶應義塾大学先端生命科学研究所等との共同研究で、ヒト腸内細菌の一種であるAkkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)の体内流入がToll様受容体及びIL-1αを介して、脾臓における髄外造血を引き起こすことを発見しました。本研究成果は、髄外造血や自己免疫疾患の理解とこれらに対する新規治療法の開発に繋がることが期待されます。
    本研究成果は、文部科学省科学研究費助成事業(「15H01519」、「17H05651」)、China Scholarship Council、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)(JP21gm1010009)、一般財団法人糧食研究会、一般財団法人化学及血清療法研究所、公益財団法人上原記念生命科学財団、公益財団法人高松宮妃癌研究基金、公益信託永尾武難病研究基金、公益財団法人ノバルティス科学振興財団、公益財団法人東京生化学研究会(現:公益財団法人中外創薬科学財団)及び熊本大学健康長寿代謝制御研究センターの支援により、令和5年10月23日に学術雑誌「EMBO Reports」に掲載されました。




【展開】

 今後はアッカーマンシアの菌体成分のうち、どのような成分が髄外造血や免疫異常を引き起こしているのかを明らかにすべく研究を進めていきます。これにより髄外造血や自己免疫疾患に対する新規治療薬の開発等に繋がることが期待されます。




【用語解説】

※1脾臓:人体の左上腹部にある臓器で、リンパ球の成熟や抗体の産生等の免疫機能や古くなった赤血球の破壊等の機能を担っている。骨髄で造血が始まる前の胎生期には脾臓で造血が行われている。
※2炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎やクローン病の総称であり、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる疾患で、主な症状は下痢や腹痛。難病指定されており、日本の患者数はおよそ30万人と見積もられている。



【論文情報】

論文名:Akkermansia muciniphila induces slow extramedullary hematopoiesis via cooperative IL-1R/TLR signals
著者:Yuxin Wang1,2, Tatsuya Morishima2,3, Maiko Sezaki2,3, Ryo Sato2, Gaku Nakato4, Shinji Fukuda4,5,6, Kouji Kobiyama7, Ken J Ishii7, Yuhua Li1,8, Hitoshi Takizawa2,9*
(*責任著者)
所属:1 Zhujiang Hospital, Southern Medical University、2熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞ストレス研究室、3熊本大学国際先端医学研究機構 造血幹細胞工学寄附講座、4神奈川県立産業技術総合研究所、5慶應義塾大学先端生命科学研究所、6筑波大学 トランスボーダー医学研究センター、7東京大学 医科学研究所、8 Bioland Laboratory、9熊本大学 健康長寿代謝制御研究センター
掲載誌:EMBO Reports
doi:10.15252/embr.202357485
URL:https://www.embopress.org/doi/full/10.15252/embr.202357485

【詳細】 プレスリリース(PDF260KB)

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